東京の三畳マンションに世界が注目 ウサギ小屋から「靴箱」部屋へ 

賃貸マンション「QUQURI(ククリ)」を運営するスピリタスのHPより

「(日本の住宅は)まるでウサギ小屋」。今のEUの前身であるEC(ヨーロッパ共同体)が1979年に提出した「対日経済戦略報告書」に書かれた皮肉のような比喩。それは国内で自嘲の意味を込めて流行語となった。

時は2022年。今東京ではやっているのはそんなウサギ小屋よりもさらに小さい「靴箱ハウス」だ。約9平米のワンルームが今年飛ぶように借り手がついている。不動産会社のスピリタスが運営する賃貸マンション「QUQURI(ククリ)」がこの動きを牽引している。

東京の狭小マンションとして、海外のメディアも注目している。ニューヨークタイムズによると、2015年から始まり、1500人の住人が約100あるククリの建物に住んでいる。住人の2/3以上が20代で、都心に近くて家賃をおさえたい人たちに人気だという。

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Judith Maria Haakshorst / EyeEm / Getty Images

東京ワンルーム家賃の推移


2022年に発表された不動産業統計集によると、2012年以降東京圏のワンルームマンションの平均賃料はあがっており、2012年7万269円から2021年7万4363円となり、4000円ほど高くなっている。

ククリもその広さからしても決して安価な値段とは言えない。平均して月額約6、7万円。それよりも安い物件は東京にたくさんあるが、池袋、渋谷、新宿、中目黒、原宿などの人気エリアで探すのは難しい。

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Michieru / Getty Images

ククリの物件の特徴は天井の高さだ。狭い部屋ではあるが、ロフトがついており、天井が高い分、同じ広さの他の物件より圧迫感が比較的少ない。そして賃料が低ければ低いほど、築年数も古くなるが、これらの物件は築浅である。ククリの人気は2018年ごろから注目され、今もなお引っ張りだこである。

若者たちは都心に近いククリを選んでいる。

コロナ禍でリモートワークという選択肢ができ、東京から離れて移住を決意した人も多くいる。東京で高い賃金を払って、満員電車に揺られて通勤するのではなく、より余裕のある暮らしを求めて。それでもなお、東京の中でも都心により近く住みたいと彼らが願うのはなぜなのか。

一つ考えられるのは、賃金格差の問題だ。大東建託が2020年9月11~16日に全国2120人を対象にインターネットで行った実施した調査によると、年収1000万円以上のテレワーク実施率は7割超だったのに対し、200万円未満では1割強と差が開いた。同社賃貸未来研究所の宗健所長は「テレワークの実施率から社会の格差が読みとれる」と指摘している

まだ収入や職が安定していない若者にとって、まだまだ出社しなくてはいけない現実があるのかもしれない。それならば通勤時間をなるべく短くして、自由時間を確保しながら自分の生活を守りたいと思うのは自然だ。

マンション価格が高騰しても、給料は変わらない


東京23区の分譲マンション価格の傾向をみてみると、コロナ禍であってもずっと右肩上がりだ。物件数が減っていくにつれて、価格もどんどん高くなり、中古マンションも飛ぶように売れている。一方で、東京都に住む人々の平均年収はこの10年をみてもほとんど横ばいである。コロナ禍で少し下がってさえいる。

このような背景から、今後も「靴箱ハウス」の人気は衰えないだろう。「ウサギ小屋」の方がまだ広かった…。そんな時代がすでにきてしまったのだ。

文=井土亜梨沙 編集=石井節子

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