エネルギー価格が上昇すると、資源開発会社の業績には追い風となる。しかし、日本最大の石油・天然ガス開発会社、INPEXを率いる上田隆之に浮かれた様子はない。
「収益は上がりますが、いまのような価格が続けば世界経済にマイナスであり、経済が減速すればエネルギーの需要は落ちていく。エネルギー会社にとっていちばん重要なのは価格が安定的に推移することです」
表情が緩まないのは、責任の重さを感じているからでもある。INPEXは国策会社の流れをくみ、現在も筆頭株主は経済産業大臣だ。
「もうかればいいという話ではない。不確実性と不安定性の時代において、いかにエネルギーを安定供給するか。それが我々の本分です」
日本への天然ガス供給に貢献しているのが、同社が主導して開発したオーストラリア「イクシスLNGプロジェクト」だ。約4兆円が投じられたプロジェクトで、2018年に生産開始。フル稼働すれば生産量は日本の輸入量の約1割強に及ぶ。
ただ、イクシス一本足打法では経営、エネルギーセキュリティ両面で不安が残る。もうひとつの柱として取り組んでいるのが、インドネシア「アバディLNGプロジェクト」だ。
アバディの権益は、同社の前身である国際石油開発が1998年に取得していた。ただ、インドネシア政府と開発計画の合意ができずに開発に着手できなかった。権益の期間は2028年までだったが、19年に55年までの延長で合意。しかし、その後も開発はコロナ禍もあり停滞中だ。上田は内幕をこう明かす。
「脱炭素を考えると、天然ガスをいまの形で未来永劫やれるとは思いません。LNGを徹底してクリーンなものにすることが必要です。当初の計画には、CCS(CO2回収・貯蓄)などでクリーンにする分野が入っていなかった。今それを含めて見直した計画を政府と協議中です」
鍵を握る国際交渉は上田の得意分野である。上田は経産省の出身で、数々の舞台で通商交渉を経験。「具体的な話は明かせない」と前置きしたうえで、かつての経験から学んだポイントを語ってくれた。
「『話せばわかる』はうそ。特にアメリカは要求水準が高く、最も話が通じない相手でした(笑)。でも、自分から席を立ったら終わりです。話のわからない相手でも、まずは共通点をなんとか見つける。それをコアにして組み立てていくしかない」
経産省時代に深くかかわった領域がエネルギーだ。印象に残っているのは、1991年の湾岸戦争。当時は資源エネルギー庁で石油を担当していた。湾岸戦争で米軍はアジア市場からジェット燃料を調達する必要があった。