2017年のオフに日本ハムファイターズからロサンゼルスエンゼルスへ移籍した大谷は2021年、日本人二人目となるシーズンMVPを獲得した。投手としては9勝を挙げ防御率は3.18、打者としては46本のホームランを放ち、OPSは.964を叩き出した。二刀流の名にふさわしい大活躍だった。
高校時代から注目を浴び続けてきた彼の野球人生は、今まさに絶頂期にあるといって過言ではないだろう。
ルーキーイヤーから「密着」なんと1460日間
『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』は彼のメジャーリーグにおける4年間の足跡をつぶさに追いかけた一冊となっている。
著者であるジェフ・フレッチャー氏はロサンゼルスの地元紙オレンジカウンティ・レジスター紙に所属するエンゼルス番の記者だ。大谷にはエンゼルスでのルーキーイヤーから密着し、その日数は1460日にも及ぶという。日本語での発信も積極的におこなっており、ユーチューブチャンネル『Sho-Time Talk』の登録者は1.5万人を越えている。
タイトル通り、本書の主人公が大谷翔平であることに間違いはない。しかし文中で大きく取り上げられているのは、どちらかと言えば彼を取り巻く環境だ。
具体的には膨大な数字を伴った成績と、チームメイトや球団フロントの内部事情といった情報である。数字については、データ分析がますます重要視されている現代野球を捉えるのにふさわしい分量だ。また情報面では、番記者ならではの取材力がいかんなく発揮されている。周辺を精緻に書くことで、大谷翔平という人物とその凄みを浮き彫りにしている書籍といえるだろう。
6月までに4章を脱稿、だが大谷が「内側側副靱帯断裂」──
本書で最も強く気付かされるのは、大谷が苦労せずに現在の名声を獲得したわけではないということだ。熱心なファンの間では周知の事実であるに違いない。しかし2021年からの活躍があまりにも目覚ましかったために、メジャーに移籍して数年間の大谷が決して順風満帆ではなかったことを忘れている人もいるのではないだろうか。
フレッチャー氏は本書を書いた経緯を以下のように記している。
「2018年スプリングトレーニングの終盤、大谷翔平はどうも力不足のようで、メジャーリーグに参戦できる状態が整っていないように見えた。
数カ月後、そんな彼が、今まで誰も見たことがないほど鮮烈なメジャーリーグデビューのシーズンを送っているのを見て、私は本を書き始めた。
6月までに4章を書き上げたところで、大谷の内側側副靱帯断裂が判明し、彼の夢と同時に私の本も一時停止となった。3年近く経ったあとに大谷は再び101マイルの速球を投じるようになり、またフェンスの向こうへ打球を飛ばすようになった。
こうして物語は再び息を吹き返した」
著者は自身が密着を始めてから本書を上梓するまでの4年間に大谷が辿った足跡をジェットコースターになぞらえている。その例えは正鵠を射ているだろう。
2018年の鳴り物入りのデビュー、それから3カ月足らずでの故障者リスト入り、トミージョン手術(靱帯再建手術)、2年間の不調……。チームメイトの死やコロナ禍でのシーズン短縮などといった想定外のハプニングさえも待ち受けていた。それらを全て乗り越えて、2021年、大谷は躍進したのだ。
原動力となったのは言うまでもなく、大谷自身の強靱さだろう。肉体もさることながら、精神のタフさには驚くばかりだ。