「介護士さんと接点をもつようになり、自分もボランティアで現場に入ったりもしました。そこから徐々に介護関係のコミュニティが広がり、世の中を支える介護ワーカーの人たちに貢献できるビジネスを立ち上げたいと思うようになったんです。
やはり、取り組むべき一番の課題は人材不足。海外に目を向けると、オランダではICTをうまく使った訪問看護システムが好調ですし、アメリカにもワークシェアリングのモデルが多くあります。介護や医療にワークシェアリングの考え方をフィットさせる仕組みを考えました」
東京はスタートアップ企業が多く参入してくる都市だが、武藤氏によれば、介護業界に定着し、成長を持続している企業の数は限られているという。スタートアップやベンチャーの若い人たちの多くは、実生活で介護に触れる経験が少ない世代なので、プレーヤーは少ない。だからこそ、ビジネスチャンスがあるというのが武藤氏の考えだ。
介護ワークシェアリングサービス「カイスケ」。仕事内容や条件が一目瞭然だ(画像=Courtesy of CaiTech inc.)
「我々も立ち上げは順調ではなく、介護ワーカーが単発の勤務で入ることに不安を覚える事業者も多く、現場での反発もありました。しかし、そうした声を聞いて地道に改善を重ね、ようやく成り立つようになりました。介護の領域は、やはり人が重要。
良いシステムを作るだけではだめで、ワーカーと高齢者の人間関係や、事業所側が一日だけなど短期間働くスポットワーカーをどう受け入れるか。我々がその社会的意義を伝え、ヒューマンとデジタルの掛け算をきちんと作らないといけない。まだまだ、日々改善しています」
質の高い日本の介護を世界の成長産業に
他分野に比べてテクノロジーの導入が遅れているとされる介護業界で、2020年1月にテスト運用を開始した「カイスケ」アプリ。しだいに軌道に乗り、現在は1700件以上の事業者と、約1万7000人の有資格ワーカーが登録する。経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2020」では、アイデアコンテスト部門のグランプリを受賞。2022年4月には3.7億円の資金調達を実施するなど、スタートアップとしても急成長を遂げている。
今後はさらに、契約する事業所を増やし続け、十分な数のエッセンシャルワーカーを流動的に確保することで、複数の介護現場を包括して支え合う社会モデルをつくりたいと武藤氏は言う。
「素敵な介護ワーカーの方がたくさんいらっしゃると日々感じています。カイスケはそうした方々の活躍の場を広げるアプリ。介護ワーカーのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を上げて豊かになるサービスを今後も展開していきたい。
また、今後は自治体とも連携していく必要性も感じています。自治体は介護事業所と関係が深く、介護人材不足は共通の課題でもあります。まずは日本国内で介護ワークシェアリングを機能させ、いずれは海外の都市にもアプリをローカライズできたらいい。質の高い日本式の介護を世界に発信していくことも可能かもしれません」