抗生物質耐性菌による感染症が増加中、英保健当局が警鐘

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英保健当局が、抗生物質に耐性をもつ感染症が同国で増加している、と警鐘を鳴らしている。抗生物質耐性菌による感染症は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで一時減少していたが、ここに来て増えているという。

英国の保健安全保障庁(UKHSA)によると、抗生物質耐性菌が引き起こした重篤な感染症の発生件数は昨年2021年に、前年比でおよそ2.2%増加した。大した増加率ではないと思えるかもしれない。しかし、別の言い方をすれば、2021年に発生した、こうした重篤な感染症は1日148件、年間5万3985件にのぼる(2020年には5万2842件だった) 。

ただしこれらの数字は、パンデミック前と比べれば低水準だ。 2019年に英国で発生した、抗生物質耐性菌による重篤な感染症は6万2000件を超えていたからだ。

パンデミックが始まって以来、とくに最初の1年間は、ソーシャルディスタンスの維持や、手を洗う頻度の増加、医療機関の利用状況の変化などが、感染症の拡大を抑制したと考えられている。

しかし、パンデミック前より低水準だとはいえ、感染症が再び増加傾向にあることは、保健当局にとっては気がかりだ。薬物耐性菌による感染症は治療が容易ではなく、敗血症などの深刻な合併症を引き起こすおそれがある。

なかには、特定の細菌に対してとりわけ弱い抗生物質もある。たとえば、重篤な感染症の治療薬として医療機関で使用されているアモキシシリンもその一つだ。

新薬が耐性率の上昇を抑えるのに役立つと期待されている一方で、当局によれば、そうした新薬にもリスクがあるという。

保健安全保障庁の主任医療顧問 スーザン・ホプキンスはこう語る。「最新の抗生物質に対する耐性を持つ菌もすでに存在する。新たな治療法を見つけるためのイノベーションは、すでに手元にある手段を確実に使用してこそ、うまくいく。抗生物質を乱用すれば、敗血症のような命にかかわる病気に対する効果が失われてしまうだろう」

ホプキンスはまた、抗生物質耐性菌の感染症増加を防ぐうえでは、抗生物質を適切に使用することが極めて重要だと述べた。英国では、処方箋がある場合のみ、抗生物質が入手できる。

英国では2017年以降、医療における抗生物質の使用量が15%以上も減少し、数年早く目標を達成した。とはいえ、耐性を持つ感染症増加の原因は他にもある。たとえば、集約畜産では抗生物質が使われている。

保健安全保障庁のチーフ・エクゼクティブ、ジェニー・ハリーズ(Jenny Harries) はこう語る。「抗生物質耐性菌による感染症は、見て見ぬふりができるような、遠いところにある問題ではない。抗生物質耐性菌が引き起こした感染症で、英国や世界中では毎年、多数の人が命を落としている。経済への影響も多大だ」

「新型コロナウイルス感染症のパンデミックを乗り越えようとしている今は、重要な転機だ。抗生物質耐性菌の「静かなパンデミック」に重点的に取り組んでいくためには、広範囲にわたる監視体制と、抗生物質の管理活動を続ける必要がある」

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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