米神経学会の医学誌「Neurology」で発表されたこのリポートは、過去に実施された多数の研究をレビューしたものだ。その結果、気候変動により加速する異常気象が、脳卒中・片頭痛・発作の増加、認知症患者の通院回数の増加、多発性硬化症の重症化と関連していることが明らかになった。
異常気象の例としては、今夏に米国、欧州、アジアの複数の地域を襲ったような猛暑と熱波や、極端な気温変化などが挙げられる。
気候変動、汚染物質、異常気象、神経疾患に関して、1990年から2022年までに実施された研究364件をレビューしたこのリポートでは、銅や硝酸塩を含む微粒子などの大気汚染物質と、脳卒中、頭痛、認知症、パーキンソン病、ALSのリスク上昇および重症化とのあいだに関連性があることがわかった。
また、このレビューで分析された複数の研究では、洪水の増加が、幅広い感染症と関連づけられている。例としては、蚊が媒介するウエストナイル熱、髄膜炎菌感染症、脳炎などが挙げられる。ただし、土地の利用や人口密度といった「気温のみにとどまらない地域的要因」も、疾患の広がりに寄与している可能性があるとも述べられている。
さらに悪いことに、気候変動により激甚化する自然災害が、治療を中断させるおそれもある。研究者らによれば、「環境が不安定になるなかで」、神経疾患の「治療計画に関して、ニーズが十分に満たされていない状況がある」という。
科学者らは以前から、気候変動が、干ばつや森林火災の悪化、海面上昇、熱波、暴風雨の大型化の原因になっていると指摘してきた。だが、気温上昇が健康におよぼす影響については、まだ幅広い分析がおこなわれていない。
今回のリポートの著者に名を連ねるクリーブランド・クリニックの神経学者アンドリュー・ダーワン(Andrew Dhawan)によれば、食料と水の供給不安が、神経疾患におよぼす影響を分析した研究は見つからなかったという。ただし、食料と水の不足は、「脳神経の健康や気候変動と、明らかに結びついている」という。