ロシアの精鋭兵士の「弾除け」と呼ばれる新たな動員兵たち

11月14日、解放されたヘルソン市街の広場に入って海外メディアの前で会見をするゼレンスキー大統領


カメラ慣れしていた大統領


──ゼレンスキー大統領のヘルソンでの会見はいかがでしたか?

ウクライナ軍が用意したバスで、各国メディアも会見に同行しました。私も参加したのですが、質問などはできませんでした。ただ、大統領はやはり元俳優でコメディアンの出身のせいか、カメラ馴れしていました。

ごく自然にすべてのメディアに視線を向けていて、取材する側としては助かりました。市民たちも会見場には押し寄せていて、大統領も近い距離で声をかけていました。

ゼレンスキー大統領の会見の2日後でしたが。国境に近いポーランドにミサイルが落ちて、2人の死亡者が出ました。NATOの加盟国にロシアが攻撃を加えたとして、こちらにいるジャーナリストの間でも大騒ぎになりました。それは、そのまま第三次世界大戦に直結しますからね。現在では、ロシアのミサイルを迎撃したウクライナ軍のミサイルの誤射との見方が支配的になっています。

しかし、こちらにいるポーランド人は「そういうことにしていたほうが、今は世界が丸くおさまるから」と言っており、いまでもロシアのポーランドを標的にした攻撃だったのではないかと疑っています。これは、ロシアに苦しめられてきた長い歴史があるからなのでしょう。ポーランドは侵攻以来、ずっとゼレンスキー大統領とウクライナを支援し続けています。

──ウクライナ軍の優勢、ロシア軍の劣勢が伝えられていますが、現地では実際にどう見えますか?

重要拠点であるヘルソンの解放は朗報ですが、現在、すぐにウクライナ軍が勝利するような状態ではないと思います。私がウクライナの軍人から聞いた話では、彼ら自体がこの戦争をまったく楽観視していないのです。

よく言われるのは、ロシアの新たに動員された兵士は装備もだめ、経験も訓練も未熟だという話ですが、ロシア軍の全部がそんな兵士ばかりではないのです。まだまだ士気が高い精鋭部隊もいます。そのため、ウクライナ軍の損害は現在でも少なくはなく、けっして侮れない相手なのです。ロシアで新たに動員された兵士たちはそうした精鋭の「弾除け」だとも言われています。

軍の人たちにも戦争の行方についてはまだまだわからない様子で、軍の現状に対しての危機感さえありました。それでもウクライナ軍がロシア軍を相手に善戦しているのは、理由があります。


香港人ジャーナリスト、クレ・カオル氏。2月の開戦前からウクライナに入り、取材を続け、ウクライナ人の抵抗を現地からレポートし続けている

私が話を聞いたウクライナ軍の兵士によれば、志願兵も多くて、みな圧倒的に士気が高い。その点はやはり有利になるようです。それと、西側が供与した最新兵器などが効率的に運用されているからだと私は思います。現在、戦場で大活躍しているM777(榴弾砲)やHIMARS(高機動ロケット砲)などは、西側がウクライナに供与した兵器です。これがロシア軍にはかなりの脅威のようです。

現在、私がいる南部地域では、直接に歩兵同士が銃を撃ち合うような戦闘はなく、双方の塹壕に対しての砲撃やドローンなどでの爆撃などが主な攻撃となっています。

文=小川善照 写真=クレ・カオル

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