循環経済への移行に向けた課題は?
張氏の話を聞くと、台湾はアジアの循環経済を牽引するうえで様々な強みを持っているように感じるが、一方で循環経済への移行に向けた課題としては、どのような点を認識しているのだろうか?
張氏「課題は、循環経済をいかに経済的に利益が出るものにしていくかという点です。そのために、私たちは官民の連携をより後押ししていく必要があります。需要が少なければコストは高くなってしまいます。そのため、私たちは循環経済に対する需要がより増えるような政策をとる必要があります。台湾では、政府がグリーン認証を取得した製品を積極的に調達する取り組みを進めています」
「また、台湾では製造業とハイテクに強みを持っているため、デザインがそれらのつなぎ役となり、より持続可能な方向へと導いていくような役割を果たしていきたいと考えています」
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台湾と日本が持つ可能性
世界の循環経済をリードしているのは欧州というイメージが強いが、その中で台湾や日本はどのような役割を果たし、どのように協働していくことができるだろうか。最後に張氏に聞いてみた。
張氏「私たちアジアは欧米とは異なります。できる限り資源を節約するという文化が社会に組み込まれていますし、日本はその好事例だと思います。『禅』に見られるように、よりシンプルでよりベーシックなものを尊重しますよね。日本のデザインはシンプルで洗練されています。これらは大量生産・消費といった考えとは大きく異なります」
「台湾と日本はお互いに距離も近く、これまでも長らく協働を続けてきました。台湾でも多くの日本人デザイナーが活躍しています。デザインという点において、台湾は日本から学ぶことが多くあります。そのうえでも、TDRIは政府、産業界、そしてデザインのプロフェショナルを橋渡しするよいプラットフォームになるでしょう」
編集後記
取材中に張氏がたびたび強調していたのは、“Quick(素早く)”変化するという言葉だ。背景にあるのは、気候危機や不安定な国際情勢など、今後ますます先行きが不透明になる世界の経済、環境、社会を見据えたとき、台湾はできるかぎり早く行動し、変化に備えていく必要があるという危機感だ。
これまで台湾の経済を支えてきた製造業やハイテク分野の強みを活かしつつ、「デザイン」というソフトパワーを次なる台湾の競争力に据えることで、小さくともレジリエントで持続可能な経済・社会を作り上げていく。張氏の話しからは、台湾が目指す、経済と文化を融合した明確な政策ビジョンが垣間見えた。
こうした台湾の循環経済に対する明確な姿勢やそれを体現するサーキュラーデザインの実践は、循環経済を推進している日本の企業や個人にとっても大いに参考になる。ぜひ今後、サーキュラーデザインにおける台湾と日本の産官学民を超えた交流や連携が進み、両者が共に学び合いながら、アジアならではの循環経済やサーキュラーデザインの形が発展していくことを期待したい。
【参照サイト】
・台湾デザイン研究院
・サステナブルなものづくりを目指し、実践する台湾デザイン7ブランドが「DESIGNART TOKYO 2022」に出展中!記者発表会を10月21日に実施
張基義 / Chi-yi Chang◎台湾デザイン研究院 院長 / President of Taiwan Design Research Institute。現在、台湾デザイン研究院院長、World Design Organization理事、国立交通大学建築学部教授、学学基金会副理事長、台東デザインセンター代表を務める。台東県副知事、国立交通大学総務担当副学長、国立交通大学建築大学院院長、A+@建築スタジオ代表を経て、『現代建築:美学の概念』『ヨーロッパの魅力』などの著書を出版。また、「現代建築:美学の概念」、「ヨーロッパの魅力:新しい建築」、「北米の現代建築に焦点を当てる」などの著書がある。1994年にハーバード大学デザイン大学院でデザイン学修士号(MDes)を、1992年にオハイオ州立大学で建築学修士号(M.Arch.)を取得している。
※この記事は、2022年11月にリリースされたCircular Economy Hubからの転載です。
(上記の記事はハーチの「IDEAS FOR GOOD」に掲載された記事を転載したものです)