張氏「サステナビリティは台湾全体の目標であり、それこそが唯一台湾の前進できる道です。台湾は韓国などとは異なり、一部の大企業ではなく数多くの中小企業で成り立っています。いま、世界では炭素中立が最優先課題となっていますが、台湾が将来グローバル市場に進出するためには、これらの中小企業が手を取り合って協力し、炭素中立に向けていち早く準備するほかにないのです。さもなければ台湾は生き残れないでしょう。私たちには素早い変化が必要なのです」
「また、台湾では若い世代が政府に対してより民主的であることを求めています。すでに台湾はとても民主的ではあるのですが。市民はよりよい公共サービスを求めており、企業が前進できるような将来の新しい経済の可能性を求めています。そのうえで、デザインはよりよい解決策を提示する優れたプラットフォームになると考えています」
廃棄プラスチックから作られたアートインスタレーション”Whale in love”/高雄市 photo by Shutterstock
多様性こそが台湾の強み
気候危機や資源枯渇に加えて国際情勢も不安定化する昨今では、資源の限られる国や地域にとって循環経済への移行が急務であることは間違いない。それは日本も同じだ。一方で、台湾はここ数年でようやく循環経済やサーキュラーデザインという概念も浸透しつつある日本よりも一足先に実践が進んでいるようにも見受けられる。日本と台湾との間にはどのような違いがあるのだろうか。
張氏「台湾には文化にも土地にも多様性があります。台湾は確かに小さいのですが、それは面積の話しであり、人口規模はそれほど小さくありません。約2,300万人もの人口がおり、多様な人々が暮らしています。中国大陸から来た人もいれば、スペインやオランダ、日本の植民地だったこともあり、16の少数民族も暮らしています。台湾はとても多様な人々や文化の混合によって成り立っているのです」
「だからこそ、台湾は民主的であり、それは私たちの誇りでもあります。私たちはその力をテクノロジーやモノづくりのためだけではなく、よりよい暮らしやよりよい社会のために活用する必要があります。人々は市民としてよりよい暮らしを求めています。台湾は、大きな国や企業と競争することはできません。だからこそ、大きくなることより、小さくても持続可能であることに焦点を当てるべきなのです」
台湾の歴史が育んだ文化的な多様性や他国との関係性、そして世界との接点があるからこそ感じる変革への危機感が、2010年代以降に欧州を中心に急速に浸透していった「循環経済」という概念をアジアの中でもいち早く取り入れる上でのドライバーとなったのだろう。
DESIGNART TOKYO 2022・社会を循環させる台湾のデザイン「the SP!RAL」の様子。 photo by 台湾デザイン研究院 / photo credit:Daisaku OOZU