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2022.11.28 15:30

「こんな面白い仕事はない!」女性投資家が描く明るい未来

写真左からキャシー松井、矢澤麻里子、増田智子、井上智子

写真左からキャシー松井、矢澤麻里子、増田智子、井上智子

「スタートアップは日本が直面する社会課題の解決を担う」。日本ベンチャーキャピタル協会の総会で岸田首相は宣言した。未来を牽引するスタートアップ・エコシステムで、近年、活躍する女性キャピタリストが増えている。イノベーションを生みだすには多様な視点、多様な人材が不可欠だ。ベンチャーキャピタル業界の多様性のいまを取材した。


未上場のスタートアップに出資するベンチャーキャピタル(VC)業界。日本のスタートアップシーンの盛り上がりと同時に、それを支えるVC業界も成長を続けている。近年、ESG投資やSDGsの高まりを背景に、VC業界内での多様性の問題が指摘されるようになってきた。

海外と同様、日本でもキャピタリストの多くは男性で、女性は約16.3%(JVCAのアンケート調査より)に過ぎない。なぜ女性ベンチャーキャピタリストが少ないことは問題なのか。どのように現状を変えることができるのか。数少ない女性ベンチャーキャピタリストとして活躍する4人に話を聞いた。

──それぞれのキャリアについて教えてください。

キャシー松井(以下、松井):30年間、外資系証券会社の日本株ストラテジストとして勤めてきて、昨年、ESG重視型のグローバルVCであるMPowerPartnersを村上由美子と関美和と共同創業した。

井上智子(以下、井上):2018年にオムロンにジョインし、CVCの代表を務めている。その前は産業投資機構で、医療機器のVC立ち上げなどをやっていた。オムロンではCVCをやっているが、事業のシナジーだけではなく、本当に社会を変えようとしている起業家、かつオムロンが長期的に取り組もうといっている社会課題にコミットしている会社を支援している。

矢澤麻里子(以下、矢澤):エンジニアとコンサルタントとしてキャリアをスタートし、シリコンバレーのVCでインターンをしてから日本のVCのサムライインキュベートでキャピタリストをやっていた。その後、米国のVC、Plug and Playの日本支社立ち上げに携わり、出産を経て20年に日本初の女性ひとりのVCの Yazawa Venturesを組成した。女性起業家支援も積極的にやっていて、ポートフォリオの半分を女性起業家の会社にしたいと思っている。

増田智子(以下、増田):新卒で大和企業投資に就職したのは2008年。一貫してスタートアップ支援をしている。入社したころに景気のかげりが見え始め、リーマンショックがやってきた。ファンドがなくて投資ができない時期もあったが、12年ぐらいからまた業界が活発化し始めて、いまは新しいファンドで新規投資をしている。つらい期間を耐えて新規投資ができる喜びは格別だった。ふたりの子どもを出産し、育休と復帰も経験した。IT中心に投資をしながら、最近はディープテックにも注力している。

──VCの魅力について教えてください。

松井:日本に比べて、米国や欧州経済は順調だったが、その根っこにはイノベーションや失敗を恐れずに挑戦する人たちやそれを応援するVCの存在があった。日本は時価総額上位10社の顔ぶれがそれほど変わっていない。よりディスラプティブ、スケーラブルでグローバルな日本のスタートアップが増えれば、若者がワクワクできる明るい日本がつくれるはず。そのためのVCの役割はすごく大きい。

井上:VCにいると、そんなこと本当にできるのか?と最初は思うようなことでも、起業家を支援することでできてしまう瞬間を目の当たりにすることがある。こういう体験の積み重ねから、社会は変えられると実感できるのがこの仕事の魅力だと思う。
--{女性が多いVCはより成功した投資ができている}--
矢澤:VCは「次の当たり前」をつくるのにいちばん近いところだ。日本経済や社会をよくしたいという思いを実現できる。まだまだ女性が少ない業界で課題も多いが、ここに女性が増えていくと、女性の視点でもっと世界を変えるような企業を生み出していけるし、多くの人の幸せにつながるはず。

増田:VCには社会をよくするための一役を担う、という楽しさがあると思う。投資するときは、かなりワクワクする。投資先がうまくいくと自分のことのようにうれしいし、なかなかうまくいかない投資先がへこんだ後に成長するのも嬉しい。入社時からずっと、いままで出会ったことがない人に出会えること、考えたこともないことに出合えることにワクワクしている。一日1ワクワクを大事にしてきた。

──VCはやりがいの多い仕事でもありますが、多様性の観点からは道半ばで、課題も多いと聞きます。

なぜ多様性が課題になっているのでしょうか。

井上: 多様性がないと、本当に力強い、本質的なイノベーションは起きない。スタンフォード大学で、医療機器のイノベーターを育てる「バイオデザインプログラム」に参加したことがある。プログラムでは、考え方が違う医師、エンジニア、ビジネスサイドのメンバーでチームを組み、お互いが素っ裸になるまでオープンに話し合うことを重要視している。本当に業界を変えるようなイノベーションには、違うものを理解すること、まったく違う人と取り組むこと、これらは不可欠だと思う。

松井:人間は自分に「フィットしやすい人」をなんとなく無意識的に選びやすい。VCで、採用や投資先もそうやって選んでしまうと、同じようなバックグラウンドと考え方ばかりになってしまう。それはもったいないことだ。日本のベンチャー投資の規模はアメリカの数十分の1未満。なぜ日本からユニコーンが諸外国ほど出てこないのか、そこに国籍、ジェンダー、障害者も含めて広い意味での多様性が欠けていることは大きいのではないか。

女性が多いVCはより成功した投資ができている


ハーバード・ケネディ・スクールが26年間分のベンチャー投資データを分析したところ、女性の投資パートナーの採用が10%多いVCでは、平均のファンドリターンは年率1.5%高く、収益性のあるエグジットが9.7%多かった。そのほか多くの研究結果から、ベンチャーキャピタリストの多様性がパフォーマンスに影響するという、明確で定量的なエビデンスがある。それなのに投資家と起業家の多様性がまだまだ足りない。

では、どのように課題に取り組むのか。ひとつは採用だ。例外はあるが、国内VCの大半は比較的少人数で、閉じられたコミュニティになりがち。バイアスが入りにくい人事のプラクティスやインタビューの仕方や採用後のフェアで透明性のある評価制度も大事だ。

矢澤:業界はだいぶ変わってきたが、いまだに女性起業家からセクハラを受けたという相談もある。多様性を当たり前にするというムーブメントは大事だ。

松井:セクハラではないが「我々の方針として20代後半から30代前半の女性起業家には原則投資できません」と言われたという話もある。倫理的なスタンダードがしっかりしているVCもあるが、全体的に改善の余地がある。これは直せる問題だし、研修もできる。
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文=Forbes JAPAN編集部 写真=若原瑞昌

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