「いずも」と「ひゅうが」は同じ、全通型甲板を持つヘリコプター搭載護衛艦だ。外見だけみると、基準排水量が19950トンの「いずも」は、同13950トンの「ひゅうが」をやや大きくしただけのようにみえる。ただ、渡邊剛次郎・元海上自衛隊横須賀地方総監(元海将)は「いずもと、ひゅうがは結果として、かなりコンセプトが違う艦です」と語る。
2009年に就役した「ひゅうが」は、海自が試行錯誤して建造した艦だった。渡邊氏によれば、海自は当時、「ひゅうが」を「航空機運用中枢艦」とするのか、「指揮統制艦」にするのか、それとも「対潜水艦戦中枢艦」にするのか、といった迷いがあった。このため、新たに大型のソナーを搭載したため、特注のドックで建造することになった。昇降エレベーターは、旧海軍の空母のように、甲板の前部と後部の計2カ所につけた。
これに対し、2015年に就役した「いずも」は、「航空機運用中枢艦」としての役割がはっきり決まっていた。様々な航空機を一機でも多く積み込めるような工夫がされている。11月6日の観艦式で、岸田首相らは甲板前部にある昇降エレベーターを使って、甲板上と艦内部を往来した。ただ、「いずも」の後部には、船体の外側に張り出した外舷エレベーターが装備されている。米空母と同じシステムで、艦の外側で航空機などの昇降作業をするため、甲板上の作業や航空機の発着を中断せずに済む。外側に張り出しているから、大型の機種でもエレベーターを使える。
観艦式の途中、「いずも」は横須賀を母港とする米原子力空母「ロナルド・レーガン」とすれ違った。岸田首相は観閲を終えた後、ヘリコプターで移動し、「レーガン」を視察した。その米軍は今、空母1隻にイージス艦5隻程度、原子力潜水艦1~2隻で構成する空母打撃群を中心とした作戦構想を変えようとしている。1995年から1996年にかけて起きた台湾海峡危機でも、米軍は空母「ニミッツ」「インディペンデンス」を中心とした2個空母打撃群を現地に向かわせ、中国軍を圧倒した。
ところが、中国軍が国防費を増大させ、A2/AD(接近阻止・領域拒否)能力を増大し、対艦弾道ミサイルを含む中距離弾道ミサイルなども増強したため、米国は空母打撃群を中心にした作戦構想の変更を迫られている。渡邊氏は「2015年くらいから、米海軍はDistributed Maritime Operation(DMO:分散型海上作戦)という構想を掲げ始めました」と語る。DMOは、地対艦ミサイルなどの攻撃を避けるため、多数の小型艦や無人艦などに長距離ミサイル等を搭載し、分散して相手の水上艦艇や地対艦ミサイルなどの攻撃を避けつつ行動させるとともに、情報衛星やUAV(無人機)、早期警戒機などを使ってネットワーク化することで、分散していても一体となった攻撃力として運用する。小型艦の主力は、2026年からの就役を目指すコンステレーション級ミサイルフリゲートで20隻を予定している。相手の戦力を相当部分消耗させたうえで、空母打撃群が最後の決め手として展開するという構想だ。