オンライン面接のみで日本のトップを採用
コロナ禍は実際のところ、彼らのビジネスを大きく後押しした。背景には、かつての金融危機の現場に居合わせたマグヌソンならではの冷静かつ大胆な意思決定があった。東京オフィスの立ち上げは、2020年10月のコロナ禍の真っ只中だった。日本支社のトップを務める菊地真之との面談は、すべてオンラインで行われ、対面での会話は一切行わずに採用を決めたという。
「一度もリアルで会ったことがない相手を、現地オフィスのトップとして採用するのは、普通の企業ならありえないことかもしれない。でも、彼が優れた資質を持つリーダーであることは十分確認できたし、競合に先がけていち早くこの市場に参入することが大きなアドバンテージになると確信していた。ただし、一つだけ予測できなかったのは、マックス(菊地)が、こんなに大柄な男だということだった」
とマグヌスンが話すと、横に居た身長189センチの菊地が笑った。しかし、彼の直感は見事に的中し、元アドビの菊地が率いる日本支社は現在、メルカリや楽天、アットコスメといった大手プラットフォームの成長を支援し拡大を続けている。
2017年時点で150人ほどだったBrazeのチームは現在、全世界で1400人を超える規模に成長。米国に加えロンドン、パリ、シンガポール、東京、トロントなど世界10都市に拠点を置いている。グローバルで1500社が利用し、月間アクティブユーザーが40億人を超えるBrazeは、カスタマーエンゲージメントプラットフォームとして他社を圧倒している。
10月12日から3日間にわたりニューヨークで開催されたカンファレンスのキーノートで、マグヌスンは、今後の小売業やヘルスケア、農業テクノロジー分野でデータが果たす役割について語り、会社のミッションを「テクノロジーとデータを使って、人々とブランドの結びつきを強固にしていくことだ」と説明した。
10月12〜14日にニューヨークで開催されたBrazeのカンファレンス「FORGE2022」には、元ナイキのCMOのグレッグ・ホフマン(写真)や、元ネットフリックスの最高マーケティング責任者でフォーブスが「世界で最も影響力のあるCMO」に選出したボゾマ・セント・ジョンらが登壇した
日本より一足先にコロナ禍を抜け出したアメリカでは、レストランや小売業の店舗に客足が戻り、ニューヨークのタイムズスクエアも以前のような活気を取り戻しつつある。しかし、インフレ率の高止まりや出口の見えないウクライナの戦争が今後の経済見通しに暗い影を落とし、テクノロジー企業の間でも大規模なレイオフが相次いでいる。
「厳しい状況が続く中で、大事なのは長期的なビジョンにフォーカスしつつ、辛抱強く目の前の課題に対処していくこと。目先の利益を追うのではなく、ロングタームで考えて優先順位を決めて正しい選択を行うこと。それが危機的状況をサバイブするために必要なことだ」
危機を生き抜いた35歳は、あくまでも楽天的に自信に満ちたトーンでそう話した。