その発信は、提携医院の拡大にも繋がった。さらに、Oh my teethが矯正利用ユーザーに提供している「24時間のLINE相談」に対応できる医師も獲得できた。
「サポート体制」は同社の強みで、LINEを使い、ユーザーに矯正器具装着のリマインドや進捗報告を送っている。
同社調べでは「通常の矯正では経験者の約3割が途中で治療を断念した」というが、Oh my teethのユーザーの継続率は97%を誇る。
権限委譲に悩んだ
業界からの信頼獲得、ユーザー数の拡大と着々と実績を積み上げているが、その裏では、急成長スタートアップで起こりがちな問題も起きていた。
「僕はエンジニア出身ですが、創業から2年ほどは営業やユーザーへのサービス説明などを自分でやっていました。 ユーザーが増えるなかで社員の採用もしたのですが、それでも一人で仕事を抱えてしまった。『自分で見ないと気が済まない』という思いが強くて、人に任せることができず、会議も全て出ていました」
しかし、初診時間の短縮などシステムの改修にも挑んでいたため、キャパシティにはすぐに限界がきた。そして西野は権限委譲に踏み切る。
スタートアップ界隈で権限委譲といえば、SmartHRの名前が挙がるが、西野は同社元CEOの宮田昇始氏のやり方を参考にしたという。
「宮田さんは、僕が2020年に参加していたOpen Network Labというスタートアップのアクセラレータープログラムの先輩です。当時のラボのメンターに、権限移譲に悩んでいることを伝えると、宮田さんのブログ記事を渡されました。そこから得た学びは『会議に出ないこと』でした」
西野は、会議を抜けるために、一つの基準を設けた。企業文化でもある「スクラム」がチームに浸透するまでは現場に居続けるようにしたのだ。スクラムとは、少人数のチームを複数作り、1週間などの短期間で計画と実装を繰り返し、サービスの質を高めていく組織運営を指す。
2021年の夏には各チームから離れ、今は会社を俯瞰的に見られるようになったという。その後はCOOやエンジニアのリーダーなどが加入し、磐石な体制を構築した。
「会議に出ることをやめ、各チームに責任を持たせる。こうしなければ、店舗のオペレーションやサービスの品質向上はできなかったと思います」
2020年4月に行った取材で西野は、パーソナライズによるOh my teethの多様な展開を視野に入れて、「口腔内データを最も保有しているプレイヤーになっていく」と野望を語っていた。
実際、今年6月には医療機関と協力し、3Dスキャナーで虫歯有無や歯石の沈着具合を調べる無料検診を始め、7月からはカメラで撮影した歯並び写真をもとに、オススメの矯正方法や費用、期間などを返信するサービスを始めている。データを活用した次なる歯科体験の創出にも期待したい。