ビジネス

2022.11.27

現状と課題から考える、多様性のあるスタートアップ・エコシステムへの道

イラストレーション=ジャコモ・バグナラ

スタートアップ・エコシステムは近年目覚ましい成長を遂げた。2021年の日本のスタートアップによる資金調達額は約7800億円と、12年の645億円から10倍以上に成長(出典:INITIAL)。岸田政権は22年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、スタートアップへの積極的な支援を打ち出した。

一方、日本の新規上場に占める女性社長比率は2%、資金調達上位50社のうち創業者もしくは社長に女性が含まれる企業の調達額は2%、女性が代表を務めるベンチャーキャピタル(VC)の社数比は1%(金融庁政策オープンラボまとめ)。

日本のスタートアップ・エコシステムでは、圧倒的なジェンダー格差が存在している。未来を担う重要な産業で、人口の半分の女性が排除されてしまうのは倫理的に正しくないことはもちろん、機会損失につながる。男性偏重が経済的にも非合理的であることはP.67でも指摘したが、多くの研究が証明している。

女性起業家の支援という観点からも、女性ベンチャーキャピタリストの存在は大きい。米バブソン大学の調査では、女性のパートナーがいるVCは男性のみのVCに比べて女性起業家に投資する傾向が3倍以上高かった。

スタートアップは未来の経済を牽引し、社会に大きな影響を与える存在だ。そのエコシステムを多様で持続可能にするために、VCの多様性を増やすことは社会的にも重要だ。

女性キャピタリストの割合は16.3%


日本ではまず実態を把握するデータがほとんどなかった。そこで、業界団体である日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)は「世界のVC業界団体で最もSDGsに向き合う団体になること」を目指し、「ダイバーシティ&インクルージョン・イニシティチブ(DI I)」を設置。会員向けのアンケート調査を22年3月から4月にかけて実施した。

回答したVC・CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)は会員 226社のうち59社で、役員・正社員人数は平均17.7人。10人以下が約4割を占め、比較的小さな組織が多い。女性の割合は平均25.5%。

さらにキャピタリストで絞ってみると、女性の割合は平均16.3%。マネジメント職では8.7%、投資委員会に出席する投資意思決定者のうち女性の割合は9.3%と1割を切った。外国籍の人は全体で6.3%、キャピタリストでは9.2%だった。

単純な比較はできないが、米国のVCを対象にした調査では、すべての従業員の45%、投資の専門職は23%、パートナーは16%を女性が占めており(出典:NVCA、VentureForward、デロイトの2021年の共同調査)、日本はアメリカよりも10~20%近く低い状況だ。とはいえ、今回取材した女性たちの多くが実感しているように、具体的なデータがないもののここ数年で状況はかなり改善されてきたとの見方が強い。

女性の割合を底上げしている背景の一つが、大企業のCVCの存在だ。大企業は一足早く女性幹部育成に取り組んできており、マネジメント層の女性も比較的充実。ここ数年、そういったCVCの女性の存在感が増している。

DIIのメンバーで前JVCA会長の仮屋薗聡一(グロービス・キャピタル・パートナーズ共同創業パートナー)は、「全体感としては、着実に女性の参画が進んでいるという印象」と総括。特に、多様性に対する意識調査の結果に今後の期待をもたせた。



調査では、表のように9割以上の会社が「ダイバーシティ促進が企業評価やVCのパフォーマンスに一部、もしくは大いに影響を及ぼす」と回答。
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文=Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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