野球は1920年代と1930年代に人気が急上昇した。ニューヨーク・ヤンキースは1921年に初めてワールドシリーズに出場し、1927年に1シーズンのホームラン記録を達成したベーブ・ルースをはじめとするスター選手に率いられ、1930年代終わりまでに11回ワールドシリーズに進出した。1960年代には、NFL(フットボール)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)といったプロスポーツリーグが、ファンの注目をMLB(メジャーリーグベースボール)と競うようになった。新たなテクノロジーの台頭とコンピューティングパワーの進歩によって、プロスポーツのチームとアスリートの綿密な統計分析を行うためのデータと測定値の収集が可能になった。
プロスポーツの新たなデータ主導時代の夜明けは、2003年に出版された『Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game Hardcover(マネー・ボール-奇跡のチームをつくった男)』(マイケル・ルイス著、日本では2004年に出版)によって広く世間に知られることとなった。『マネー・ボール』はオークランド・アスレチックスがゼネラルマネージャーであるビリー・ビーンの下、データと分析手法を導入し、低予算で強豪チームを作り上げた物語だ。2011年に映画化され、主演のブラッド・ピットがデータサイエンスを駆使するビリー・ビーンを演じた。
『マネー・ボール』の前提にあったのは選手、監督、コーチ、スカウト、球団フロントをはじめとする野球関係者の知見は時代遅れであり、そのゲーム観は19世紀の遺物であるというものだった。『マネー・ボール』は、データと分析を導入することで新たな指標を作ることが可能になり、球団はニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・ドジャースのような資金豊富なチームと競合できるチームを作れるかもしれないと主張した。