『マネー・ボール』から20年、プロスポーツにおけるデータと分析の現在

2011年9月19日、カリフォルニア州オークランドのパラマウント・シアターで行われた映画『マネーボール』のプレミア上映(Steve Jennings / Getty Images)

The New Yorker(ザ・ニューヨーカー)のライター、ロジャー・エンジェル(故人)は野球を「夏のゲーム(The Summer Game)」と呼んだ。ホーナス・ワグナー、タイ・カッブ、サチェル・ペイジ、ディジー・ディーン、ジョシュ・ギブソンをはじめとする過去の華やかな名選手で名高いスポーツだ。2022年のMLBシーズンはヒューストン・アストロズのワールドシリーズ優勝で幕を閉じたが、南北戦争のすぐ後に始まった(最初のプロ野球チームであるシンシナティ・レッドストッキングスは1869年に設立された)このアメリカの伝統的なスポーツが、他の競技も取り入れつつある、現代的なデータと分析の利用を通じてどのような変化を遂げてきたか、振り返ってみたい。

野球は1920年代と1930年代に人気が急上昇した。ニューヨーク・ヤンキースは1921年に初めてワールドシリーズに出場し、1927年に1シーズンのホームラン記録を達成したベーブ・ルースをはじめとするスター選手に率いられ、1930年代終わりまでに11回ワールドシリーズに進出した。1960年代には、NFL(フットボール)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)といったプロスポーツリーグが、ファンの注目をMLB(メジャーリーグベースボール)と競うようになった。新たなテクノロジーの台頭とコンピューティングパワーの進歩によって、プロスポーツのチームとアスリートの綿密な統計分析を行うためのデータと測定値の収集が可能になった。

プロスポーツの新たなデータ主導時代の夜明けは、2003年に出版された『Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game Hardcoverマネー・ボール-奇跡のチームをつくった男)』(マイケル・ルイス著、日本では2004年に出版)によって広く世間に知られることとなった。『マネー・ボール』はオークランド・アスレチックスがゼネラルマネージャーであるビリー・ビーンの下、データと分析手法を導入し、低予算で強豪チームを作り上げた物語だ。2011年に映画化され、主演のブラッド・ピットがデータサイエンスを駆使するビリー・ビーンを演じた。

『マネー・ボール』の前提にあったのは選手、監督、コーチ、スカウト、球団フロントをはじめとする野球関係者の知見は時代遅れであり、そのゲーム観は19世紀の遺物であるというものだった。『マネー・ボール』は、データと分析を導入することで新たな指標を作ることが可能になり、球団はニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・ドジャースのような資金豊富なチームと競合できるチームを作れるかもしれないと主張した。
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翻訳=高橋信夫

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