ボストン交響楽団が5年ぶりに来日 オーケストラCEOのビジョン

ボストン交響楽団 CEO ゲイル・サミュエル

アメリカ5大オーケストラの一つに数えられるボストン交響楽団が、2022年秋に5年ぶりとなる日本ツアーを行っている。小澤征爾が長らく音楽監督を務めていたことでも知られるこのオーケストラを率いるのは、ロサンゼルスフィルハーモニーでの要職を経て昨年CEOに就任したゲイル・サミュエル氏だ。

コロナ禍が一段落し、ようやく海外ツアーを再開。世界を代表するオーケストラのCEOは、組織をどうマネジメントしているのか。来日にあわせて話を聞いた。

コミュニティと共にあるオーケストラ


オーケストラ運営していくために、券売の売上といった数字でパフォーマンスをしっかりあげていくことはベースとして重要なことです。加えて、来場者数もKPIとして注視しています。やはり多くの方に観ていただけるにこしたことはありません。

ただ我々は非営利団体であり、コミュニティの中で役割を果たしていくということもまた大事なミッションで、そこを成し得ていくことが、ファンドレイジング(寄付金集め)の成果にも繋がっていきます。

アメリカのオーケストラは、情熱のある個人が立ち上げた団体がそのまま引き継がれて運営されていることが多く、多少は公的な補助金もありますが、予算の大部分が寄付金で賄われています。日本やヨーロッパのように行政やメディアが運営を支えるというケースは稀です。

寄付のモチベーションは共感であり、それを醸成するには、芸術的な側面において高い水準を維持することがとても重要です。我々の音楽的なアプローチが、どういうコミュニティに伝わっていくのか、ボストンの方々とどう繋っていくのかというのは常に考えていることです。

アメリカの多くの都市に共通しますが、ボストンにも実に多様な人々が暮らしています。この様々な人種・年代の人々とどう繋がりを持っていくか。

それには例えば、時を越えて人気がある素晴らしい作品に限らず、黒人や女性の作曲家の作品を演奏することもまた重要です。聴いている側は、自分たちが反映されてる音楽を聴くことで共感を抱く側面がありますから。



ボストンの歴史の一部として


私が長年務めていたロサンゼルスフィルハーモニーの本拠地ロサンゼルスとボストンは、ある意味、対称的といえるくらいの違いがあります。気候はもちろんですが、歴史に対するスタンスが全然違います。ボストンの人々は歴史を大事にしていると思います。あと、ロスはアジアのほうを向いていて、ボストンはヨーロッパのほうを向いている感じもあります。

ボストンはいわゆる大都市ではないですが、この街の歴史は古く、ここに住む人たちは街に誇りを持っています。BSOを支持してくれている人たちには、(ボストンが本拠地のMLBのチーム)レッドソックスの熱狂的なファンも多いです。

以前は、ほとんどのオーケストラが一律に『偉大なオーケストラ』を目指していた感覚がありますが、昨今は拠点とするコミュニティとどのように接触するか、そしてコミュニティとどうつながっていくかのプライオリティが高くなってきています。

BSOにとっては、タングルウッドの存在が大きいですね。ボストンから車で3時間ほどのその場所は、夏の間の本拠地であり、音楽祭の会場、トレーニングセンターの役割も兼ねています。タングルウッドでオーケストラとともに勉強した音楽家の卵たちが、その後BSOに入団して文化を受け継いでいっています。


タングルウッドの音楽祭(c)Hilary Scott 

こうして並々と紡がれているBSOの存在自体が、ボストンの歴史のひとつと言えると思います。新しいメンバーを迎える時には、音楽監督と楽団員たちが審査をするので、音楽監督が変わると、団員にも少し変化が起こるところもあります。
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文・写真=山本憲資 通訳=井上裕佳子 撮影協力=サントリーホール

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