アンドリス・ネルソンスが語る、ボストン交響楽団と美しい音楽

ボストン交響楽団 音楽監督 アンドリス・ネルソンス


美しい音楽の追求


音楽監督に就任して8年、当初は、この楽団の特徴はなにか、どういう雰囲気なのか時間をかけて理解してくところから始まりました。
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人間の体型が人それぞれ違うように、やはり楽団ごとに違いがあるんです。それを探って理解していくプロセスにおいては、指揮者として個人的なビジョンを持ちつつも、オーケストラに合わせて柔軟に対応し、共に旅に出ることが大切だと感じています。



オーケストラにおいてもチームワークはとても大事な要素で、私の一番のミッションは、各楽団員が勇気を奮って自分たちの表現をやりきれる状態にすることです。そこに楽団の歴史や伝統をシンクロさせる。その上で観客を惹きつけていくことこそ、自分の役割だと考えています。
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それには技術どうこうの指導よりも雰囲気の醸成が重要で、そのためには、マーラーやベートーヴェンといった作曲家たちがどういう思いでこの曲を作曲したのか、その背景や精神性を共有し、理解を深めていくこともまた必要なことです。

美しい音楽を作ることはひとつのゴールですが、美しい音を鳴らせば達成できるかというと、そうではありません。美しさは状況に応じて変わってくるもので、場合によっては逆説的に醜いものが美しいときもあります。それを、確かなレベルで表現していかなければなりません。

日本のアーティストについて


そもそも日本がとても好きなのですが、久しぶりの来日になりました。もっと来日の頻度を増やしたいですね。今回、BSOで6公演を行い、日を追うごとに自分の精神も静かに落ち着いてきて、日本の人々との繋がりを感じています。

私はマーシャルアーツ好きが興じて、テコンドーの黒帯を持っているのですが、テコンドーにも空手と似た部分があり、稽古を通じて規律の素晴らしさを学んでいます。

自分を律し、多くを語らずとも、考えの深さが伝わる。今回のツアーではピアニストの内田光子さんと共演しましたが、彼女に限らず、日本の音楽家に対しては総じて、考えが深く、深い演奏をするという印象を持っています。魂の中で熟考していそうなイメージです。

ときに激しく演奏することもありますが、彼らの世界観の根源には、時がゆっくりと流れていている感覚があります。世界がせわしく動いている中で、別の軸があるのかもしれません。あくまで私の個人的な理解で、間違っているかもしれませんけどね(笑)。



今回の滞在はまだ続き、11月末にはセイジ・オザワ 松本フェスティバルの30周年の特別公演でサイトウ・キネン・オーケストラとマーラーの交響曲第9番を演奏します。今回のBSO公演にはマーラーの6番がありましたが、ここから9番へと壮大な旅が続いていくのも楽しみでなりません。

マエストロ・オザワは日本においてだけではなく、世界の伝説的な存在なのですよ。残念ながら近年は体調が優れないと聞いてはいますが、BSOの大先輩でもある彼が大切にしているこのフェスティバルで、サイトウ・キネン・オーケストラと共演できることをとても嬉しく思います。

文・写真=山本憲資 通訳=加藤紫織

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