「塩気」「酸がきれい」。南半球最大ワイン見本市で邂逅、南アワインの奇跡

カリスマオーラを放つピーター・アラン・フィンレイソン氏と筆者。「クリスタルム」は入手困難なので、彼が手掛けるもう1つのワイン「ガブリエルスクルーフ」が狙い目


「3日では到底足りない」おもしろさ!


大きな誤算は、「3日もあればだいたい回れるだろう」と高をくくっていたこと。スタイルが多様で、とても時間が足りないほど飲みたいワインが多い。これはある意味すごいことだ。例えば、ヨーロッパが丸々すっぽり入る巨大なオーストラリアなら話はわかる。だが、南アフリカは実はコンパクトな産地で、車で数時間あれば主要なワイン産地へ行けてしまう。それなのに栽培している品種も実にさまざまだ。

まず南アフリカの重要な品種といえば、白ブドウのシュナン・ブランと黒ブドウのピノタージュ。シュナン・ブランはもともとフランスのロワール地方に由来するブドウ品種だが、南アフリカで独自のスタイルを確立し、いまや栽培面積の約19%を誇る一大品種だ。ワインはシャンパン顔負けのスパークリングからナポレオンも愛した甘口、すっきりしたものからコクのあるタイプまで揃う。後述するように、最近は古木のシュナン・ブランに注目で、日本でもさまざまなタイプが手に入る。ピノタージュは1925年に交配された南アフリカ固有の品種だ。

もちろんピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど王道メジャー品種も有名で、最近特に評価の高いグルナッシュやシラーなどローヌ系品種から、ポルトガルやギリシャの品種まである。

「ルールにとらわれないブレンド」も魅力


さらにバリエーション豊かになるのは、ルールにとらわれないブレンドをできるから。例えば、フランスでは法律により「このブドウしか使ってはいけない」などと決まりごとがあるが、南アフリカでは自由なブレンドが可能。ピノタージュやシュナン・ブランとボルドー品種を混ぜた「ケープ・ブレンド」なんていう独自のスタイルすら生み出してしまう。


今回発見したシャルドネの名手「Weltevrede」のフィリップ・ジョンカー氏。「シャルドネが僕を選んだんだ」の一言にしびれた

そして見本市でひしと感じたのは、透明感のあるエレガントなワインの実に多いこと。エレガントとはつまり、酸が綺麗で、どこか涼しげで繊細なワイン。造り手たちも「余韻に旨味がある」「塩気を感じる」というコメントを連発していたのだが、果実味一辺倒でない奥深さがあるものに多く出会った。

「夜は震えるほど寒い」の冷却効果が叶える酸味


温かい産地でも酸味がキープされるのは、寒流や冷たい海風、標高の影響による冷却効果があるから。特に温暖なスワートランドですら夜は震えるほど寒く、アフリカ大陸の南端にいることを忘れるほどだった。

このように、日中の太陽が育んだ豊かな果実味を高い酸味が下支えする緊張感のある味わいゆえに、専門家の間では、南アフリカワイン=「オールドワールドとニューワールドの中間的存在」とよく言われる。特に海沿いのへメル・エン・アールデや標高の高いエルギンという産地は、シャルドネやピノ・ノワールといったブルゴーニュ品種の適地だ。いま、ブルゴーニュワインは価格が高騰し庶民にはなかなか手が届きにくい存在となってしまったが、南アフリカなら、ブルゴーニュに代わる美味しいワインが安く手に入るというのも、人気を後押ししている大きな理由の一つといえるだろう。


ストーム・ワインズでは3小地区の味わいの違いを表現




水上彩(みずかみ・あや)◎ワイン愛が高じて通信業界からワイン業界に転身。『日本ワイン紀行』ライターとして日本全国のワイナリーを取材するなど、ワイン専門誌や諸メディア等へ執筆。WOSA Japan(南アフリカワイン協会)のメディアマーケティング担当として、南アフリカワインのPRにも力を注ぐ。J.S.A認定ワインエキスパート。ワインの国際資格WSET最上位のLevel 4 Diploma取得。

取材・文=水上彩 編集=石井節子

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