ゲイツ財団が支援する「万能ワクチン」開発を目指す起業家

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ファイザー出身の研究者


Glanvilleがバイオテクノロジー分野で起業するのは今回が初めてではない。彼はカリフォルニア大学バークレー校で、生命科学と情報科学の融合分野のひとつである「バイオインフォマティクス」を学んだ後、ファイザーに移って科学者として4年間、機械学習モデルなどのバイオインフォマティクスツールを活用した抗体治療開発に従事した。ファイザーで、彼のチームは最初のヒト抗体ライブラリの1つを発表し、人体が特定の病原体に対してつくった抗体のカタログを研究者に提供した。
 
Glanvilleがファイザーに在職していた頃、人によっては、インフルエンザウイルスなどの保存された部位に対する抗体を作ることがわかっていた。その抗体は、ウイルスの変異しにくい部位に向けられており、より幅広い感染防止が可能になる。このような抗体を作り出すワクチンの開発は非常に困難で、成功すれば変異の早いウイルスに対する万能ワクチンという、バイオテクノロジーにおける偉業の1つを成し遂げることになる。
 
この難題にチャレンジすることを決意したGlanvilleは、2012年にファイザーを退職して「Distributed Bio」を設立し、新ワクチンと治療用抗体の開発に取り組んだ。Distributed Bioは、ワクチン事業をCentivaxとしてスピンアウトした後、2021年にCharles River Laboratoriesに1億400万ドルで買収された。
 
Glanvilleは、ファイザーの科学者だったSawsan Youssefや、スクリプス研究所でメディカル・チーフを務めたPamela Garzone、フォーブスの「30 UNDER 30(世界を変える30歳未満の30人)に選出されたことのあるStephanie Wisner、研究者のDavid GangemiとNicholas Baylessの5人と共にCentivaxを設立した。

同社は、2021年1月に正式発足し、ゲイツ財団からグローバル・グランド・チャレンジの助成金を受けた。Glanvilleの取り組みは、ネットフリックスのドキュメンタリー番組「パンデミック」で紹介された。
 
同社は、これまでに人間に近い免疫システムを持つブタを用いて万能ワクチンの試験を行っており、ワクチンを形成する株だけでなく、2009年に世界的大流行を起こしたインフルエンザを含む、ワクチンには含まれていない株に対しても強い抗体反応が得られたという。このことは、同社のワクチンプラットフォームが、将来流行する恐れがあるインフルエンザ株に対しても免疫反応を起こす可能性を示唆している。
 
Glanvilleは、自社のワクチン開発方法が、インフルエンザや新型コロナ、HIVなどに対して有効であると考えている。「我々の技術が適していると考えられる病原体は、他に17種類ある」と彼は言うが、必ずしも全ての病気に適しているわけではないという。
 
「病原体が大きく変異するために良いワクチンが作られていない場合は、我々の手法が適していると言える。そのようなカテゴリーに入る病原体はまだ数多く存在する」と彼は述べた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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