本連載では、現地に1年間滞在し、スタートアップ・エコシステム調査を行う芦澤美智子が、その内部の実態を探りお届けしていきます。第2回はスタンフォード大学経営大学院の熊平智伸(くまひら・とものぶ)さんです。
──スタンフォード大学に入学した経緯は。
日本の大学からブラウン大学に編入し、卒業後は三菱商事の金融投資部門で仕事をしました。「投資する側」として仕事を続けるなかで、「投資を受ける側」こそが主体的に未来を担うプレイヤーだと思うに至り、ケニアの林業ベンチャーの「Komaza(コマザ)」に参画しました。
Komazaではファイナンス・戦略部門の責任者を担い、2022年9月までに5000万ドル超(約70億円)を調達。グローバルな舞台と現場をつなぐインパクトある仕事に誇りを感じていました。
Komazaで働いた5年間で、気候変動にまつわる世界の変化も肌で感じました。ケニアの農村部が、干ばつや異常気象の影響を受けたり、欧米を中心に気候変動テーマで動くお金が年々増えていったり。
ある時、投資家から「10億ドル(約1450億円)の投資をしたいから、インパクトの大きいアイデアを提案してほしい」と言われて、答えに窮することがありました。これまでと桁が2つ違う、100倍規模の金額が気候変動で動きはじめていることに衝撃を受けたんです。そして「お金」よりも「投資先である事業の質量」が圧倒的に不足している実感が強くなり、「この巨大で複雑なテーマを、改めて体系的に学び直したい」と考えるようになりました。
スタンフォード大学を選んだ理由は、スタートアップの中心地シリコンバレーに存在する経営大学院であるという点です。加えて、Stanford Social Innovation Review(社会課題の解決を専門に扱うジャーナル)や、2022年9月に新設されたサステナビリティ学部があり、まさにこの分野の最先端、最高峰だと感じました。日本人として初めて「ナイト・ヘネシー奨学生」に選ばれたことも入学の決め手です。
撮影=高梨良子
実は、ケニアの仕事を継続するか、スタンフォードに進学するかは、最後まで悩みました。最終的な決断をしたのは、この奨学金の共同創設者であるジョン・ヘネシー氏本人から、直接電話がかかってきた時。自ら1本1本電話をかけ「世界を変える仲間になろう」とリクルーティングする心意気に動かされ、入学を決意しました。
学生とともに学ぶ、大物たち
──ナイト・ヘネシー奨学生は、スタンフォードの中でも特に優秀な学生が選ばれており、合格率も1パーセント前後と聞いたことがあります。どのようなプログラムでしょうか?
ナイキの共同創業者であるフィル・ナイト氏と、スタンフォード大学の前学長でアルファベット(Googleの親会社)の会長ジョン・ヘネシー氏にちなんで名付けられた奨学金です。気候変動や公衆衛生、政策、教育など、世界の重要課題に取り組んだ実績を持つ修士・博士課程学生を、スタンフォードの全学部から毎年70人選抜しています。