「みんな違う現実を生きている」メタバースを超えた先の現実科学とは?

ハコスコ代表、デジタルハリウッド大学大学院教授・藤井直敬氏

2022年現在、AR・VRといった現実を拡張するガジェットは一般ユーザーでも手が届くほど身近になり、大手企業も続々とメタバースへ事業参画を繰り広げている。テクノロジーによってつくられる「人工的な現実」は、私たちを取り囲む「天然の現実」と時に混ざり合い、時に重なり合い、その境界は曖昧になっています。

これから仮想現実は、現実世界にどのような影響を与え、私たちの認知や感受性はどのように変化していくのか。

話を聞いたのは、実験家の藤井直敬氏。脳科学をベースにソリューションの開発・提供を行う「ハコスコ」の代表でありながら、「現実科学」を主要研究テーマにデジタルハリウッド大学大学院教授も務め、医学者・科学者・経営者・教授・アーティストと様々な肩書きを持つ。

脳科学からVR、メタバースショップにまで研究と事業を広げる中で見据える、「現実」の新しい形とは。

脳研究の“一回性”を求めた先にあった「SR(代替現実)」


──藤井さんは眼科医からキャリアをスタートし、2014年にハコスコを起業して経営者に転身されました。そのきっかけは。

元々僕はサルを使って「社会脳」という脳科学の研究を行っていました。「社会脳」とは、他者との関係性がどのように脳で処理されて、それがどう自分の行動に反映されるかを研究したものです。

サルの「社会脳」は正直で、数頭の間で餌の取り合いをさせて一旦上下関係が固定されると、毎回同じ振る舞いをします。ただ、人間の場合は複雑で、内心では別のことを考えながらも行動に嘘をつくことができてしまう。サルの社会でみられるような“一回性”を、人間社会でいかに再現するか、が研究を進める課題としてありました。

例えば、僕が毎朝家族に声を掛ける「おはよう」という行動を完璧に再現しようとしても、頭の「お」に普段とは異なる周波数が混ざるなど、状況やトーン、体調のパラメーターが違うだけで“一回性”は損なわれてしまう。

そこで、現実をまるごと一定条件で再現できる手段はないかと研究員と模索していたら、VRカメラの技術に行き着きました。そこから、現実と過去の映像を混同させるSR(Substitutional Reality:代替現実)の研究に没頭するようになりました。


インタビューをする筆者(知財図鑑/Konel代表 出村光世)
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文=出村光世

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