ビジネス

2022.11.25

「成長企業のための法人カード」の急成長、世界を変えるべく向き合った誠実さ UPSIDER宮城徹

UPSIDER 宮城 徹


「スタートアップはタイミングがすべて」


急成長企業を冷静にハンドリングしているように見える宮城だが、実はスタートアップ経営者としてのスタンスは1年少し前に大きく変わった。

ターニングポイントは21年8月。当時も売り上げや決済額は順調に成長していたが、広告宣伝費は1円も使わず、人件費を抑え、オフィスは数人で満員の狭い部屋をひとつ借りていただけだった。「事業計画もコンサバで、黒字を出して事業をやっていくのは当然だよねというのが経営陣とのコンセンサスでもありました」と振り返る。

しかし、支援を受けていた投資家に、「決済のあり方を変える新しいインフラをつくることを目指して創業したのに、このままだと小さいカード会社で終わるんじゃない?」と強烈なパンチを浴びた。一瞬、心の中で強く反発したが、うなずかざるをえなかった。

「勘違いしていたなと反省したのは、自分に実力があれば、努力さえすれば、時間をかければ、それなりの事業がつくれるとどこかで思っていたことです。でも、世の中を本当に変えるスタートアップって、タイミングがすべて。逃したチャンスは二度とめぐってこない。しかるべきタイミングで波に乗るためには、大きな事業を早くつくって備えるべきだと気づいたんです」

次の週には、大きな成長投資にシフトすると決め、採用も拡大。広告やキャンペーン施策、新規事業の立ち上げと矢継ぎ早に進めた。20億円のシリーズBラウンドの調達は翌9月に実行というスピード感だった。成長カーブもそこから一気に急角度になった。

そして宮城は、爆発的な成長には、顧客やパートナー企業を含むエコシステムの力が不可欠であるということに、より自覚的になった。

UPSIDERの成長を左右するのは、ひとえに顧客のビジネスの成長度合いだ。単に決済サービスを使ってもらうだけでなく、顧客の事業運営やファイナンス全体を支援するなど、「カスタマーサクセス」的な取り組みも進めているという。

大学時代も前職のマッキンゼー・アンド・カンパニーでも、机上であれこれ考える前に、直感で動いて得た体験をもとにロジックを組み立てること、そして目の前の縁を大事にすることで道を開いてきた。UPSIDERの創業経営者としても、出資者や協業する金融機関、そして顧客に誠実に向き合うことで自分自身が心底納得できる経営方針に行きついた。

当面の目標として、法人間決済の課題を網羅的に解決するワンストップソリューションを開発し、最終的には法人向け金融商品のオープンなプラットフォームにまで発展させる構想だ。やはり多くの人を巻き込み、いかにエコシステムを活性化するかがカギになる。


宮城 徹◎東京大学卒。2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、東京支社、ロンドン支社にて大手金融機関の全社変革プロジェクトに従事。18年にUPSIDERを創業した。

文=本多和幸 写真=ヤン・ブース スタイリング=堀口和貢 ヘア=KOTARO(センス オブ ヒューモア) メイク=SADA ITO (センス オブ ヒューモア)

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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