コンサバな事業計画から一転して、大きな成長投資へ。小さなカード会社が変わることができたきっかけは、投資家からの痛烈な一言だった。
2022年10月に複数の大手金融機関からの融資で467億円の資金調達を行ったUPSIDER。同年5月にシリーズCで約150億円(54億円の第三者割当増資と約100億円の追加融資枠)を調達して、創業からの累計調達額が200億円規模になったばかりだった。
スタートアップとしては非常に大規模な資金調達にも思えるが、創業者で代表取締役の宮城徹は「法人カードをはじめとする成長企業のための決済サービスを提供している当社にとっては、事業モデル上、必要な措置でしかないとも言えます」と冷静だ。
顧客の数が増え、彼らの事業がそれぞれ大きくなるにつれ、1社あたりの決済額も高額になっていく。もくろみ通りに成長企業の利用が拡大すれば、サービス全体の決済額も指数関数的に増えていく。UPSIDER側の立て替え資金需要も同じように増えるわけだ。
同社の法人カードサービスの決済額はこの1年で10倍以上に成長している。累計決済額は約500億円、導入社数は月間1000社を超えるペースで増加。
「法人間の決済は国内だけでも年間1000兆円以上。それに比べれば豆粒のような規模です」と謙遜するが、事業がうまくいかなくなったユーザーの貸し倒れリスクなどは吸収できる規模になったと見ている。法人間取引におけるカード決済の利用が順調に拡大している実感があり、市場環境も良好だ。
最大数億円の利用限度額や、API連携による会計ソフトへの利用明細の自動反映、効率とガバナンスを両立した柔軟な権限設定を含むWeb機能などがセールスポイント。UPSIDERのサービスが介在することで、与信管理を含む取り引きコストや業務負荷を下げたり、従来は取引対象にならなかった企業間での取引が生まれたりするなど、新しい可能性を開く決済ソリューションとして評価されている手応えがある。
ただし、価値の本質は、個別の機能の優位性にはないと宮城は言う。
「真の差別化要素は、優秀なエンジニアの採用を含むサービス開発への投資により、財務経理業務の課題解決に貢献できるソフトウェアソリューションを実現し、それを週次のペースで進化させ続けていること。決済はそのなかのひとつの機能でしかないんです。そうした世界観で得られる体験こそが唯一無二ものだと思っています」。