時間外救急プラットフォームを手がける彼らにとって、過去2年間の爆速成長は序章に過ぎなかった。目指すのは、新しい医療インフラ構築による「2040年問題」の解決だ。
医療の生産性を劇的に上げた
救急医療の現場に立つ医師の危機感と、企業経営/デジタルテクノロジーの専門家に芽生えた少子高齢化に対する問題意識──。ふたつが交わることで、時間外救急プラットフォームを運営するファストドクターのビジネスは歯車がかみ合い、医療業界の新たなインフラを提供する企業として存在感を高めている。新型コロナウイルス感染症への対応で医療資源の効率的な供給に貢献し、売上高、利益とも急成長した。
ただし、彼らにとってここまではほんの序章でしかない。創業者で代表取締CEOそして医師でもある菊池亮は「2040年に向けて、日本の医療の新しいインフラを確立し、全国にしっかり届けていきたいんです」と話す。
40年には高齢化による医療需要がピークに達し、「2040年問題」が深刻化すると指摘されている。代表的なのが社会保障費の増大だ。その解決策として、政府はデータとデジタルテクノロジーの活用を前提に医療の仕組みを変える医療DX(デジタルトランスフォーメーション)施策を打ち出している。
医療資源を、必要なとき必要な場所に、効率的に届けられる仕組みを整えるとともに、国民一人ひとりにパーソナライズした健康維持支援を行い、医療需要の膨張を抑える。ファストドクターは、自らのサービスが日本の医療DXの基盤として活用されることを現実的な目標としている。
いくら重大な社会課題であっても、営利企業である限り、経済合理性を担保できなければその解決への取り組みを事業にすることは難しい。
菊池とともに代表取締役CEOを務める水野敬志は「医療の生産性を劇的に上げられたことで、経済合理性の限界という枠を大きく拡大できましたし、これからも拡張し続けられると思っています」と手応えを語る。ビジョンとテクノロジーによってソーシャルイノベーションをけん引し続ける意思と、将来にわたって医療のインフラを担う責任への自覚こそが、ユニークなビジネスを支える屋台骨だ。