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2022.11.30

1台20万円の美顔器を「独身の日」に62億円売上。岐阜県の美顔器メーカーが仕掛けた海外戦略とは

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中国では独身を意味する数字「1」が並ぶ11月11日は「独身の日」と呼ばれ、毎年大規模なECセールイベントが行われる。ここ近年で期間や規模が拡大し続けるなか、最大手のアリババグループは2021年に11日間セールを行い、取引総額が日本円で10兆円に到達した。

このセールで同年50億円以上、2022年に62億円の売上を達成した日本の高級美顔器メーカーがある。岐阜県羽島市に本社を構える株式会社ARTISTIC&CO.GLOBAL(アーティスティックアンドシーオー グローバル)だ。

経理社員として入社した現代表、金 松月(きん しょうげつ/以下、金)はなぜ中国市場で一気に60億円以上の売り上げを達成できたのか。彼女の生い立ちから探っていく。

中国の貧困地域の村出身。アルバイトと勉強の両立で日本留学


金は中国吉林省の中心地から50kmほど離れた、貧困地域の農家の娘として生まれ育つ。小さな頃から、人にできて自分にできないことはないと思う負けず嫌いな性格で、勉強もスポーツも常に一番を目指す子供時代だった。

経済的理由で中学校への進学が難しい状況だったが、小学校の先生が援助の手を差し伸べ進学。高校時代は日本への留学に必要な100万円を捻出するためアルバイトに明け暮れた。必死で資金を貯めるも100万円には及ばなかったが、両親が村の人に頼み込み、借金をして奈良県の白鳳女子短期大学に留学する。

この借金も金の原動力となり、来日後わずか1年で返済。短大から岐阜の朝日大学経営学部へと転入する。大学でも学業とアルバイトを両立させ、レストランのアルバイトで1ヶ月約50万円を稼ぐなど、無我夢中で駆け抜けた学生時代を送った。

「学生時代は一日も休むことなく常に学び、働いていました。目の前にあることを必死に一つずつ取り組んでいたという感覚です。そのため大変なことがあっても、あの時あれだけ頑張れたのだから今もできると自分に言い聞かせることもあります」(金)

その後中国に帰国するが、再び来日。日本の企業に就職し3年後に独立する。通訳・翻訳やセミナーを開催し人脈を広げる中、ARTISTIC&CO.の創業者である故・近藤英樹(以下、近藤)と出会い、経理社員として就職した。

転機はキャンディー10万袋の契約締結。経理の仕事から海外向け子会社の代表に


ARTISTIC&CO.は近藤が自ら美容機器の研究開発を行ない、2008年にエステサロン向け美顔器の製造・販売会社として設立した。2010年より小型の家庭用美顔器を展開し、国内をはじめ中国、韓国など世界に輸出を開始。メイドインジャパンの確かなクオリティ、そして医師監修というエビデンスを持つ。

未経験の美容業界へと転職した金は、与えられた業務だけでなく、自ら仕事を作っていったと話す。


ARTISTIC&CO.GLOBAL代表取締役 金 松月(きん しょうげつ)

「経理の仕事として請求書を発行するのですが、価格設定、購入層、顧客の満足感など分からないことが多く、近藤に尋ねたり、営業とともに現場に行ったりもしました。取引先に請求書を出す以上、販売する高額な商品がその金額に見合うものなのかを確かめたいと思ったからです」

経理社員として資金の流れからビジネス全体の流れ、近藤のビジネスに対する考え方などを学び、商品代金や提供する価値の理解を深めていった金。経理以外の仕事も自ら率先して行い、会社全体を円滑に回す近藤の裏方、社長代行のような仕事も行なった。

転機が訪れたのは2016年、東京のビッグサイトで行われた展示会だ。金は主力商品の美容器具ではなく1袋650円の乳酸菌入りビューティー・キャンディーの運営スタッフを任される。キャンディーの展示・販売はあくまでついでであり、場所もメインブースではなくサブブース。いわゆるオマケのような展示販売だったにもかかわらず、金は中国の企業から10万袋分の大型契約を獲得する。入社してわずか半年の出来事だった。

「近藤には『騙されている。そんなに買うわけがない。値段交渉に使われているだけや』と言われました。それなら受注数が減っても損をしないコスト設定を見積りで出せばいい。『キャンディを作っている間にキャンセルされたらどうするんだ』と言われても、コスト分を前金で取引すればいいと言い返しました。

取引にリスクは伴うものですが、リスクをいかに小さくするか、そのリスクは自分で請け負える範囲かどうかを計算できれば、その可能性を潰す必要性はない。常に今できることを考えて行動していました」

入社半年、営業未経験の金が展示会の隅で大型契約を結んだことは社内中の大ニュースとなる。そして、金にとってもこの成功体験は大きな自信へとつながっていった。

海外メーカーとの戦略の違いを痛感。ブランドとしての価値を高める


展示会をきっかけに社内で認められ、経理の仕事から中国をはじめとする海外の輸出の仕事にシフトしていくこととなった金。2017年にARTISTIC&CO.の海外向け事業を行う会社としてARTISTIC&CO.GLOBALが設立され、金は同社にて力を発揮していくこととなる。


Dr.Arrivo ZeusII(ドクターアリーヴォ ゼウスII)。金色に輝く9つの素子が肌をしっかりととらえ、エステティシャンのタッピングを思わせるリズミカルな動きで肌を内面から刺激、生き生きとした肌へと導く

だが当初、日本国内と海外での美容ビジネスの違いに直面したと金は話す。

「日本国内では美容機器の性能やスペックを聞かれるが、海外では『どこのブランドなのか』と聞かれる。エンドユーザーが求めているのはブランドが持つ価値そのものでした」

韓国メーカーは商品単体ではなく、ブランド化された「韓国エステ」の価値や素晴らしさを提案する。その上で販売する商品がどのような美を創造できるのか、美容機器を介して生まれる世界観をアピールすることが海外市場では重要だったのだ。

ここからARTISTIC&CO.GLOBALの商品をブランド化するためのプロモーションが始まる。まずはKOL(Key Opinion Leader)による拡散で認知度を向上させ、その後、高級製品としての価値を伝えるべく有名女優をアンバサダーに起用。ファッションショーのように商品を紹介するイベントやパーティなども開催した。

一番の賭けだったのは免税店での出店だ。免税店に出店することで、世界中の旅行客の目に留まり、また、免税店で扱われていることがブランドとしての価値、認知度を高めてくれる。

最初に出店したのは中国海南島にある免税店で、日本製美顔器を扱うコーナーだ。ここで認知度を高め実績を上げるため、販売員にライバル社と比べ4倍のインセンティブを支払い、販売員のやる気をアップさせた。

「インセンティブを高く出す=ARTISTIC&CO.GLOBALは販売員を大切にしてくれるという信頼にもつながる。結果的に商品の認知度向上、ブランド化へとつながっていきました」

認知度が高まると今度は偽物、コピー商品が出回るようになる。これを解決するために金はQRコードを導入し、無償で真偽判定を行なった。さらに偽物だった場合、購入先の情報を提供すれば50%割引券をプレゼントするという特典もつけたのだ。

「代理店経由の販売の場合、顧客データは代理店のものですが、QRコードの登録によりメーカーも顧客データを得ることができる。そして真偽判定で違法販売の摘発にもつながります」

実はこのアイデア、金がロボット掃除機を購入した際、シリアル登録をすることでアフターケアが受けられるというサービスから思いついたものだった。

「世の中には自分が必要とするサービスはいくらでもある。それが具現化されているものであればその情報をキャッチし、自分たちに適した仕組みに作り上げればいい。ゆくゆくは顧客データをもとにお客様に還元される仕組みも作っていきたいと考えています」

現在、ARTISTIC&CO.GLOBALは中国、韓国のほか、アメリカ、フランス、ベトナムにも進出。メイドインジャパンの美容ブランドとして、確実に認知度と信頼を上げている。

全ての女性のキレイを応援する、世界一の美顔器ブランドでありたい


海外での成功と並行し、日本市場での拡大も着実に進んでいる。2021年に社長の近藤が急逝したことから金が代表取締役に就任。近藤が所有していた自社株を買い取ることになり、親会社の持っていた国内向け独占販売権も取得し、日本での販売に関してもARTISTIC&CO.GLOBALが本格的に手掛けることとなった。

売り場で実際に試してから購入することを重視する日本では、2021年2月19日にGINZA SIXに出店。さらに2022年2月17日に関西エリア初の直営店を大丸心斎橋店にオープンし、同年2月には伊勢丹新宿店メンズ館にも出店した。

さらにBtoB事業では化粧品専門店チャネルと協業。商品在庫はARTISTIC&CO.GLOBALが持つこととし、専門店には販売するごとに1台当たり商品価格の30%を還元するなど、専門店が販売しやすい環境を整えている。そしてユーザーとのコミュニティの場として、年末恒例となっているインスタライブの24時間ライブ配信を、2022年も12月29日(木)22時より開始する予定だ。



「ライブ配信は実際の使用感を語り合うユーザー同士のコミュニティになるなど、この場をきっかけに様々なものが生まれる楽しさがあります。私たちのような会社があり、面白いことをやっている、ということを知っていただくのも企業として一つの価値がある。今後はWeb3も含め、バーチャルの世界でもサービスが展開できるようにしたいですね」

日常の中で良いと思ったアイデアを活かし、商品開発や販売、アフターケアなど様々なサービスに繋げていく金。

「日本で有名な会社が海外でも同じ認知があるとは限らない。だからこそ私たちのような中小企業でも海外でチャレンジする機会がある。人にできて自分にできないことはない、という姿勢は子供の頃から変わっていません。この先のストーリーは自分たちで作り上げていくものであり、全ての人のキレイを応援する、世界一の美顔器ブランドでありたいということが私たちの夢であり使命です。今後もお客様に寄り添い、価値を満たせるものを作り続けていきたいと思っています」



金 松月(きん・しょうげつ)
◎ARTISTIC&CO.GLOBAL代表取締役。中国吉林省出身。中国で高校を卒業後、日本へ留学。白鳳女子短期大学卒業後朝日大学に転入するが、帰国・結婚のため中退。再来日後は岐阜の株式会社テックイドーに就職。退職後フリーで通訳や講演を始める。2017年ARTISTIC&CO.創業者の近藤英樹社長と出会い、経理社員として入社。展示会の大型受注を機にARTISTIC&CO.GLOBALを設立、海外事業を任されるようになる。近藤社長急逝に伴い、2021年3月より同社代表取締役に就任。 2022年10月21日に著書『経営を成功させる”運”の磨き方~経理スタッフから2年で売上156億円を創った女性社長の軌跡~』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。

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