アメリカの若者に最も人気のメッセンジャーアプリが「Kik」。ユーザー数は2億人に及び、登録者の三分の一は16歳から24歳。毎日25万人が新たにユーザー登録をしている。そのKikで利用が始まった最新のアドテクノロジーが「ブランド・ボット(brand bot)」と呼ばれる手法だ。
ブランド・ボットとは、Kikのようなメッセンジャーアプリ上で動作する自動化されたアカウントで、何千人ものユーザーと1対1のチャットを行うことができる。ボットを活用したマーケティング手法は、KikやTinderなどの若いユーザー向けに利用が広がっている。
Kikは企業向けにブランド・ボット機能の「Promoted Chats」を2014年11月に導入。その後7ヶ月で、既に1千万人以上のユーザーがボットとチャットを行い、やり取りされたメッセージの数は3億5,000万以上という膨大な数に及ぶ。
これらのブランド・ボットの背後にはFunny or DieやMoviefoneなどのメディア企業、さらにMassivelyといったコンテンツプラットフォームらが存在する。
ブランド・ボットの一例を挙げよう。Massivelyは最近、ホラー映画「Insidious 3」のプロモーションにブランド・ボットを活用した。同社は映画のヒロインのボットを作り、ユーザーと会話をさせたのだ。主演女優に成りすましたボットは、ユーザーらに対し「何か、気味が悪いことが起こりそうよ」といった、ぎこちないメッセージを発信した。
また、SF映画「Ex-Machina 」を制作したDNA Studiosも今年の初め、出会い系アプリTinder上で主演女優のボットを作り、ユーザーらとの会話の中で「私は人間ではありません」と告白するプロモーションを行った。
映画スタジオにとってブランド・ボットは今後に期待が持てるマーケティング手法だ。ボットによる会話をもっとリアルにプログラミングできれば、ユーザーは物語のキャラクターと実際に会話をしている気分になり、作品に対する愛着が高まるだろう。
KikのPromoted Chatには現在60社以上がアカウント登録をしている。アクセサリーの販売を手掛けるSkull Candy社のブランド・ボットは、立ち上げから3ヶ月で30万人と会話をした。「この数字は3年もかかって獲得した彼らのTwitterのフォロワー数を優に上回った」とKikの広報担当者はコメントしている。
KikのCEO、テッド・リビングストーンは「ブランド・ボットこそが、企業が顧客と関係を構築するツールの未来像だ」と確信している。
「もはや、誰も新しいアプリをダウンロードしたりしない。中国ではメッセンジャーアプリ上の企業アカウントが非常にうまくいっている。企業はアプリをダウンロードさせるのではなく、“新しい友達”とチャットをさせればいいんだ」
リビングストーンがそう語るのは、中国で最も人気のメッセンジャーアプリWeChatのことだ。WeChatの月間アクティブユーザー数は5億人を超え、従来のウェブポータルに取って代わる存在になりつつある。単なるコミュニケーションツールの枠を超え、エンターテイメントや物販など、あらゆる情報や活動のハブとなっている。
リビングストーンはWeChatの関係者から直接得た情報として「中国では、インターネット上で新たに開設されるウェブサイトの数よりも、WeChat上で新規登録される公式アカウントの数の方が多い」と述べている。
彼は「このビジネスモデルはKikの収益構造のベースになっている」と話すが、売上へのインパクトについては明らかにしなかった。
「数字を教えることはできないが、上手くいっていることは間違いない」とリビングストーンは語った。