怖いのは米国より習近平、首脳会談から見えてくる中国の内部事情

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そして、こうした長口上にうんざりする相手国の外交官を横目に、中国の同席者たちは一心不乱にメモを取る。通常、どの国も、自国の代表の発言は「トーキングポイント(発言要領)」が事前に配られているため、そんな面倒なことはしない。中国の場合、自国の代表が発言したことをメモすることは非常に重要なのだという。元幹部は「政治局常務委員クラスの大物になると、トーキングポイントを読まずに話す場合が多いからだ」と語る。中国の実力者の発言を正確に覚えておかなければ、自分の政治的な立ち位置を決める際に過ちを犯すことがある。だから、必死になってメモを取るのだという。

こうしたやり方は北朝鮮も同じだ。1992年1月、ニューヨークでカンター米国務次官と金容淳朝鮮労働党書記による、朝鮮戦争後初の米朝高官級会談が開かれた。当時、会談に同席したカートマン元朝鮮半島平和会談特使によれば、金容淳氏はやはり、長々と米国を批判する演説を繰り広げた。カートマン氏は「金容淳は我々にではなく、平壌に向かってしゃべっていた」と語る。同席者たちは一生懸命メモを取っていた。別の外交筋によれば、北朝鮮がこうした協議のなかで、唯一、メモをとらないのは、秘密警察の国家保衛省関係者くらいだという。

一方、中国と北朝鮮に比べて、ほんの少し、違うのがロシアだという。数年前、日本とロシアで外交協議が東京で行われた。その際、モスクワからやってきたロシア外務省の高官が、かなり無理筋な主張をした。シリアのアサド政権との協力や、ロシアの反体制派への弾圧を全面否定するといった内容だったという。このとき、日本側の関係者が何気なく、ロシア側の同席者の方をみた。そこに座っていたのは、ノートテイカーと呼ばれる、記録係に動員された東京のロシア大使館職員だった。「きっと、一生懸命メモを取っているんだろう」と思ってみると、このノートテイカーは冷めた表情で、指先でペンをクルクルさせる「ペン回し」をしていたという。

別の外務省元幹部は「ロシアは今でこそ、ウクライナに侵攻するなど、非道な行いを続けているが、当時は、この話を聞いて、ロシアもG8になっただけのことはあるな、と思ったものだ」と語った。その後、このロシアの職員がどうなったのかは、誰も知らない。

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文=牧野愛博

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