怖いのは米国より習近平、首脳会談から見えてくる中国の内部事情

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バイデン米大統領と中国の習近平国家主席が14日、インドネシア・バリ島で会談した。両氏が対面で首脳会談を行うのは、2021年1月にバイデン氏が大統領に就任してから初めてだ。両首脳は約3時間にわたって会談した。日本政府関係者は「バイデン氏にしてみれば、台湾やウクライナ、北朝鮮など、習氏に言っておくべき問題がたくさんあった」と語る。中国は10月の共産党大会を経て、事実上の習近平独裁体制を固めた。この関係者は「いくら外交的に積み上げても、結局は習近平氏に伝わっていなければ意味がない。あるいは習近平氏が言ったことが全てだとも言える。だから、首脳会談は重要だ」と説明する。

米国にとって非常に重要な会談だったわけだが、ここで華麗に登場したのが、向かって習近平氏の右隣に座った王毅国務委員兼外相だった。王毅氏は69歳で、「67歳まで」としていた従来の政治局員の年齢制限を超えていた。だが、69歳の習近平氏が慣例を破って再選された「恩恵」を被り、10月の党大会でめでたく政治局委員に昇進した。早速、前任の楊潔篪氏に代わり、外交トップとしての地位を内外にアピールした形になった。王毅氏を巡っては、日本通という立場が、現在の緊張した日中関係のなかでマイナスに働くことを懸念し、「わざと日本に冷淡な態度を取っていた」という、あまりよろしくない評判をよく耳にした。

中国との外交を経験した元外務省幹部は「中国との外交協議は、疲れることが多かった」と語る。その一つが、東京ではなくて北京を向いた、中国外交官たちの姿勢だった。外交協議の場では、交渉の要点に入る前に、長々と中国の主張を論じる。歴史に触れることもあれば、個人的な体験を交えることもあるが、主張はいつも同じだ。一連の主張が終わると、ようやく最後に交渉の要点について触れる。元幹部は「それは全部、日本政府というより、北京の実力者たちに聞かせるものだからだ」と語る。これは、普段の外交接触でも慣例になっている。さすがに、他に誰もいないことが明らかな時は、日本側が「あなたの言いたいことは全部わかっている。ちゃんとしゃべったことにしてあげるから、省略したらどうか」と言うと、ばつが悪い笑顔を浮かべながら、「多少」省略することはあるが、やはり主張は続ける。
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文=牧野愛博

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