借入先は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行、あおぞら銀行、新生銀行、三井住友信託銀行、三井住友銀行、日本政策金融公庫の8行。借入形態は通常の融資に加え、長期借入とコミットメントラインを含む。
今回の調達の特徴は、エクイティ・ファイナンスが一切含まれないデット・オンリーであること。また、無担保かつ無保証で、借入金利はAll-in costで年利1.0%未満、新株予約権の付与もないなど、好条件で大規模の借入を実現したことだ。
「エクイティで同じ金額を調達しようと思えばできたが、調達条件とコストを考慮してデットを選択した」とタイミーCFOの八木智昭は言い切る。
米国の金融引き締めの影響で、スタートアップの資金調達環境はここ1年間で大きく変化。エクイティ・ファイナンスでは、昨年のように評価額を大きく上げてのアップラウンドは難しくなっている。巨額になれば、その分ダイリューションも進行してしまうため、これを敬遠したかたちだ。
一方、スタートアップにとって銀行融資によるデット・ファイナンスはハードルが高く、調達ができても小規模の金額か、高い金利がつくのが一般的。なぜタイミーが大手銀行から好条件を引き出すことができたのか。そのポイントについて、八木は「成長の実績と、今後の成長の蓋然性の高さ」を挙げる。
「今回の調達に向けて10カ月ほど前から動き始めたが、最初からいい条件を提示してくれた銀行はなかった。そもそも借入自体が難しいかもしれないというなかで、毎月の計画に対して、実績が上回っていることをしっかりと示しながら地道な交渉を続けてきた成果だ。タイミーの提出した計画がでたらめでなく、今後もさらに伸びていくこと、少子高齢化という構造的な課題の中で、人手不足を解決するサービスへのニーズはますます大きくなることを評価いただけた」
主力のスキマバイトサービス「タイミー」は、オンライン上で募集される数時間単位のスポット案件を仲介するもので、22年10月時点で350万人以上のワーカー、3万3000社以上の事業者が利用。22年8〜10月は、サービス上での求人募集人数が前年同期比4.7倍に拡大している。
また八木は、自身が元銀行マンであることも踏まえて、デット・ファイナンスにおけるコミュニケーションの重要性について次のように話す。
「銀行からの信用というのは、少しずつ溜まっていくもの。困ったときに声をかけて助けを求めるだけではいけない。今回の調達に限らず、私はタイミーに入社してからの2年間、いろんな場面でこまめに、タイムリーなコミュニケーションを続けてきた。
例えば、月次の決算など、何かの経営にかかわる数字に変化が出たら、当日中に取引のある銀行の担当者に電話をして、変動要因なども含めて細やかに報告するようにしている。常にこちらからプロアクティブに数字を開示して、理解していただく。それによって、取引の規模や幅も広がっていく」
国内スタートアップでは、まだデット・ファイナンスでの100億円を超える大規模な調達事例は少ない。最近ではスタートアップ専門の部署を設ける銀行の動きが活発化しており、取引拡大に向けた機運が高まっているが、VCを中心としたエクイティ・ファイナンスとは、評価基準も価値判断も異なる相手だけに、好条件を勝ち取るためには綿密なコミュニケーションが重要といえそうだ。