「現実の父」と「理想の父」の間で育った少年の物語丨映画「ブロンクス物語」


再び現実の父と出会う


後半で全面化してくるのは、イタリア系の少年ギャングたちと黒人の少年たちとの対立だ。黒人への差別意識を剥き出しにする仲間の中で、ジェーンと親しくなったソニーは孤立するが、ジェーンの兄に「敵」と誤解されて口論になり、つい差別的言辞を吐いたことでジェーンは去ってしまう。

失恋と共に、今度は二人の父からそれぞれ別件で叱られるという出来事が立て続けに起こるのだが、ここでぐっと我慢して踏み止まれないのが、17歳の弱さである。

カロジェロは黒人少年たちへの襲撃に向かう仲間の車に、半ば強制的に乗せられる。両脇を仲間に挟まれた車の後部座席でのカロジェロの後悔と煩悶は、”ヤンチャ”をしたことのない者にも、若い頃の何かを思い出させる。

すんでのところで破滅に向かう彼の行動を押し止めたのは、ソニーだ。しかし、自分を救ってくれた人に心からの感謝を伝えたいという、カロジェロの思いが遂げられることはない。

ソニーの死はマフィア同士の因果の巡りによる必然と言えるが、父という観点から捉えると、理想の父は少年の人生に突然現れ、一通りの「教育」を施した後に去る、ということではないだろうか。大きな支えの喪失を通して少年は大人になり、再び現実の父と出会うのだ。

連載:シネマの男〜父なき時代のファーザーシップ
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文=大野左紀子

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