カロジェロによる「父の否定」
カロジェロが分不相応な現金を持っているのに気づいたロレンツォは激怒して「俺の息子に近づくな」とソニーに金を突き返し、労働して金を得るべきだと息子を諭す。しかし「再教育」は想像以上に息子に浸透していて、「働く奴はバカだ」というソニーがカロジェロに吹き込んだ人生訓を、そのまま幼い息子の口から聞かされることになる。
ロレンツォ役を演じたロバート・デ・ニーロ(2022年)
貧しくても正直に真面目にコツコツ働くことが、ロレンツォを支えてきた。その父の信じる価値観の否定は、父の否定だ。しかも息子の新たな父となっているのは、自分などが到底太刀打ちできない相手なのだ。
この時のロレンツォの悔しさと情けなさは、想像するに余りある。いつまでも貧しく惨めな状態に耐えられない移民の少年が、羽振りのいいマフィアに惹きつけられる、その気持ちを全否定できない辛さが、彼の無念に拍車をかけている。
カロジェロは説教の効かない年頃に
ドラマ後半は8年後。17歳になったカロジェロ(リロ・ブランカート)はすっかりソニーの「息子」になっている。ボスの手足ではなく、友人枠の特別扱いといったところだ。ここには、まだ高校生で世間を知らないカロジェロへの配慮と共に、現実の父であるロレンツォに対するソニーの義理立てもあるだろう。
「愛と恐怖ではどちらが重要か」というカロジェロの問いに、ソニーは「恐怖」と教える。その言葉の通り、バーで騒いでいた通りすがりのバイカー集団をこてんぱんに叩きのめす現場にカロジェロを立ち合わせ、恐怖と暴力による支配がどういうものかを見せつける。
その一方で、地元の少年ギャングたちが銃を盗んできたのを叱り、粋がってボルサリーノの帽子を被って彼らとつるんでいるカロジェロを、「俺の真似はするな」と諭す。この「教育」のバランス感覚はなかなかのものだ。
ロレンツォやカロジェロ自身の繊細な感情も描かれる。珍しく二人揃ってボクシング観戦に来た父子のところにソニーの部下が寄越され、リング脇のボスに近い席に来ないかと言われるシーンだ。もちろん誘われているのはカロジェロだけ。躊躇う息子にロレンツォは行くよう静かに促し、息子は「傷つけてごめん」と言い残して席を立つ。
自分の価値観とは相容れない世界に入っている、もう説教の効かない年頃になった息子の後ろ姿を複雑な思いで見守る父。父の気持ちを気にしつつも後戻りはしない息子。これは成長し親離れしていくあらゆる息子とそれを見守る父に、共通する姿ではないだろうか。
また、カロジェロの片思いの相手として、黒人のジェーンが登場する。彼女との不器用な恋の進展に、ソニー、ロレンツォのそれぞれがアドバイスをしてくれるくだりで、分裂していた現実の父と理想の父は重なり合う。