「俺を父にする覚悟はあるのか?」
作中では、カロジェロが理想の父の「息子」となる決定的な出来事が起きる。重要な場面なので少し詳しく見てみよう。
カロジェロはある日、トラブルからソニーが相手を撃ち殺した現場を偶然目撃し、7人の容疑者の面通しで1人ひとりについて警察から質問される。人々が見守る舗道でのこの緊張感高まるシーンで、「7人目」だったソニーの瞳と自分の瞳がガッチリと交差した時、カロジェロは偽証を決意する。
そもそもなぜそのトラブルが生じたのかという背景を、カロジェロは知らない。大人の世界の事情がわからない彼にあるのは、「真実は理想の父の側にあるはずだ」という幼い確信のみだ。
後に、殺人犯である自分を救ってくれたカロジェロに対して、ソニーは「お前は悪い奴を助けた」と軽く揺さぶりをかける。これは「俺を父にする覚悟はあるのか?」の言い換えだ。
「告げ口はいけないと思った」というカロジェロのいかにも子供らしい返事は、客観的には、彼が法の支配する一般社会ではなく、無法世界に生きるソニーの側に既にいることを示している。もちろんその自覚は、その時のカロジェロにはない。だが「お前は間違っていない」という理想の父のお墨付きは、カロジェロを一歩その世界へと押し出す。
当然、現実の父との間には微妙な軋轢が生じてくる。年齢のわりに目端の効く賢い息子を案じるロレンツォが、自身が運転するバスに彼を乗せて終点まで行き、二人きりになったところで「自分の才能を無駄にするな」と遠回しに言う言葉には、口下手だが真剣な父の思いが込められている。
カロジェロの「恩義」に報いるためかソニーの部下が自分に斡旋してくれる割の良い仕事を断るのも、そちらの世界に借りを作りたくないというロレンツォの生真面目さの表れだ。現実主義者の妻ジーナは報酬額を聞いて残念がるが、最終的には質素で実直な夫の気持ちを理解する。
一方、自分に向けられた父ロレンツォの言葉を愛情の表れとして受け止めつつも、禁じられたバーでソニーに会ったカロジェロは、初めての大人の世界に完全に魅了される。さらには、親の目を盗んでバーでの下働きでチップを稼ぎ、賭博ではソニーに大勝利をもたらして自分も多額の小遣いを得、かつてない高揚感を味わう。すべては理想の父による「再教育」だ。