「ゲスの極み乙女」NFTプロジェクト 川谷絵音にとって成功とは


その説明に対して川谷は、「12月3日で123個じゃないのかって。多いなと思って、気になっていた」と言うが、数字に対しては冷静だ。というのも普段から、「他のアーティストの数字も含め、再生数とか、毎月細かくデータを見ている」のだという。

ただ、それを曲作りに反映するなど、囚われすぎることはない。「結局何も考えていないときにつくる曲が良かったりするので、確認材料ですね」と、やはり飄々としている。だからこそ、新しいことへの挑戦にも腰が軽いのかもしれない。

「僕は、最終的に成功すればいいと思っているから、新しいことの結果は気にならないというか。やっぱり失敗は成功のもとで、何か別のことに活かせたりもするし。NFTもやらなかったらやらないで、NFTをやらない人生で終わる」

実際、海外を意識して制作したMaruは約3割が北米で購入され、それが結果として見えたことで「海外でライブしてみたい」という気持ちが強くなったという。

それは、「まだまだ先がある川谷絵音というアーティストが、小さな成功体験で塗り固められてしまうこと、マーケティング戦略として成功を作り上げてしまうことがもったいないと思った」と言う増井の狙い通りなのだろう。川谷自身も、「成功だと思った瞬間に終わっちゃうというか、僕は常に何かを求めていたいタイプ」で、作り続けられる動機を欲していると話す。



では、ひとつのプロジェクトを経て得られた成果、見えてきた課題は何だったのか。

岩瀬は、「今回、NFTに詳しいゲスのファンの方もいましたが、クリプトもNFTもわからないなかで、いろんな壁を乗り越えて買ってくださった方もいました。“Web2とWeb3の掛け橋”という言葉がよく使われますが、本当に駆け橋のようになった。そういう例はほとんどない」と評価。

そのうえで、デジタルのものを買う、あるいは所有するという感覚が浸透し、NFTが広がっていくには、「リアルともストリーミングとも違う、NFTでしかできないものをもっと工夫して作っていき、かつ、それを丁寧に伝えていくことが必要」だと語る。

レーベルとしてはどうか。これまでは、できた音楽をできるだけ多くの人に届ける役割だったのに対して、NFTは曲を買える人・聞ける人を絞るものとなる。

「実は、ワーナーミュージックとして、グローバルでもまだ答えが出ていません」と増井。

川谷が道を切り開いたことで得た知見を使いながら、こうした取り組みを継続し、かつてCDからサブスクに移行したときのように、兼ね合いを探っていくのだという。

ただ、このプロジェクト自体は、インターナショナルのトップが絶賛するほどの成果を出し、「一つのイノベーションを起こした」と念を押す。

「ゲスの極み乙女」 川谷絵音

それを受けて、「僕は全然実感がないですけどね。本当のイノベーションって、意識せずに実感できた時だとも思うので」と返す川谷。先を行きながらも、地に足がついている。きっとNFTが普及した頃には、また違う新しいことを進めているのだろう。

編集=鈴木奈央

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