7月1日にNFTを発売後、購入者とオンラインリスニングパーティを行ったり、ツイッタースペースで交流をしたりした。また、ミュージックビデオ制作にも意見を取り入れたりしている。
そして10月、Maruプロジェクト最後の展開として、購入者に「デジタルのNFTを持つか、アナログのレコードと交換するか」を投げかけた。
これは、現代アーティストのダミアン・ハーストのNFTプロジェクト「The Currency」に着想を得ている。ハーストは1万点の作品をNFTで発売後、購入者に「NFTで所有するか、現物を所有するか」の選択を迫った。NFTを選ぶと現物はバーン(焼却)されるという仕組みで、ハーストは10月、選ばれなかった4851点の現物を燃やし尽くした。
「僕の場合、どちらかを問うというメッセージはそこまで強くなく、純粋にメンバーとアナログを作りたいという話があった」と言う川谷自身の選択は、アナログだ。
(左から) ゲスの極み乙女メンバーたち。レコードのカバーにはNFTと同じ1点もののアートワークが印刷される
「CDがほぼなくなってサブスクが主流になっても、『今カセットが熱い』とか、結局戻ってくるじゃないですか。だからNFTまでいっちゃっても、その反動でレコードが欲しいみたいになるのかなと。この流れでいけばアナログはもっと伸びるだろうし、NFTも伸びる。矛盾したものが同時に伸びて、その時の気分で変えられるようになるかもしれない。
今回のプロジェクトで、NFTをバーンしたらアナログを手にできるというのは、その矛盾を“繋げるもの”なのかな。僕は絶対アナログに変えるから、これでNFTの方を選ぶ人って、かなり新人類な感じがします。でも、変えたら変えたでNFTなくなるんだ……と思うので、人間って強欲ですね」
実際、Maruにおいては購入者のうち約3割がアナログを選んだという。岩瀬は、「種明かしをすると、NFTを2個以上持っていて、ひとつはNFT、ひとつはレコードという持ち方をしている人もいます」と補足し、次のように続けた。
「Discord(購入者やファンがつながるプラットフォーム)上で皆さんの反応見ていると、『そんなの選べない、ひどい』みたいな意見もあって、それぐらい問いかける感じがあったのかなと思います。全員に無料でレコードをプレゼントをするのでは、ありがちでつまらない。5年後、10年後にどうなってるかわからない中で選ぶという行為が面白かったのではないか」
Maruの販売数は1203個。具体的な数は公表されていないが、完売ではない。すると人によっては、失敗だと見るかもしれない。これについて増井は、「成功のフリをするなら、最初から数を絞るやり方もあった」として、プロジェクトに込めた思いを明かした。
「せっかく新しいことやるのに、最初から成功を置きにいくと知見を得られない。これは始まりであってゴールではないので、大事なのは、どこまでリーチできた/できなかったか、どんな属性の人が反応してくれた/してくれなかったのかを知ること。なので販売数に関しては、川谷さんの誕生日という、特に根拠がない数字になっています。そして想定した数字に対して『即完!』と言えるほど売れました」