「ゲスの極み乙女」NFTプロジェクト 川谷絵音にとって成功とは

ゲスの極み乙女 川谷絵音

活動10周年を迎えた今年、「ゲスの極み乙女。」が「ゲスの極み乙女」に改名した。バンド名の右端の「。」をとったのだ。その「。」は7月、1203個のNFTへと姿を変え、それぞれ0.1ETH(約2万円)で発売された。

言葉としては耳慣れたNFTだが、日本のメジャーアーティストの動きはそう多くない。「Maru」と名付けられたプロジェクトでは、ロンドン在住のデザイナーCentral Parkが、メンバー4人のイラストをはじめとする「丸」を重ねたアートを手がけ、ゲスの極み乙女が新曲「Gut Feeling」を制作し、アート×音楽のNFTが生み出された。

例えば、ギターボーカルである川谷絵音が描かれたNFTには、「Gut Feeling」のうち川谷のみのパートが30秒、ベース担当の休日課長の顔がのったアートには、ベースのみが30秒入っているという具合だ。メンバー4人の顔が揃ったレアなNFTにはフルバージョンが入っているが、どのNFTを手にできるかは購入後にわかるという仕組みだった。

加えて、購入者には、オンラインイベントやミュージックビデオ製作時の意見表明、限定レコードと交換する権利などの特典が与えられた。レコードとの交換に関しては、「人々はデジタルとリアルのどちらを残すのか」を問う実験的要素もあった。

ゲスの極み乙女が所属するワーナーミュージック・ジャパンにとって「グローバルでも先端をいっていた」という本プロジェクトについて、10月18日、都内で行われたファン向けイベントで、ワーナーミュージック・ジャパンの増井健仁、NFTプラットフォームKLKTN(コレクション)共同創業者の岩瀬大輔、川谷絵音が振り返った。


(左から)KLKTNの岩瀬大輔、ゲスの極み乙女の川谷絵音、ワーナーミュージック・ジャパンの増井健仁

プロジェクトの始まりは、10周年ライブへ向けた打ち合わせで川谷が放った冗談だった。

「10周年に何をしようか、名前を変えてもいいよね。みたいな話から、マルをとってそれで面白いことができないかという流れになって。例えば、マルを一個限定でハイプライスで売るとか。NFTの話は途中から出てきました」

もともと音楽の著作権に関心があり、「タダ同然で曲を聴けることが、音楽を衰退させる」と懸念していた川谷は、曲に価値を持たせる方法を考えていた。そんななかで浮上してきたNFTというテクノロジーに対して、「そればかり話す人を胡散臭いと思っていた」と言う一方、可能性も感じていた。

「数年前から音楽の単価が安くなっていることに疑問を感じていて、1曲をアートみたいに数万〜数百万円で売るのはどうかとか話していたので、NFTによって相手を絞って売るというのは、考えていたことと近いというか。それを実現できるのかもしれないと思いました」

Maruプロジェクトの中身や展開は、KLKTNが主に考え、デザイナーらと打ち合わせを重ねて固めていった。このために書き下ろした楽曲「Gut Feeling」に関しては、作り方が普段とだいぶ違っていたという。

「ゲスは初期からジャズやプログレなどいろんなジャンルを混ぜて曲を作っているのですが、今回はNFTで、世界の人に聞いてほしいという気持ちもあって、シンプルに作ろうと考えました。あと、ステム(楽曲データ)を分けるということで、音数を少なくしました。楽器の数も絞って、いつもなら数時間やるレコーディングも5、6分で終わらせたり。シンプルにやることがこの曲の正解というか、ゲスの極み乙女としてはかなり異色な曲になりました」
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編集=鈴木奈央

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