ビジネス

2022.11.15 10:25

ベースフードが上場 社員の起業家精神を育てる「余白の文化」


ターニングポイント2 起業後1年間、1人で試行錯誤


2016年に現在の会社を起業。しかし、完全栄養の主食という新しい価値観に挑戦するということもあり、最初から人材の採用をするのにはためらいがあった。食品業界に人脈もなかったため、栄養士の資格を持つ知人や業界の人の間をまわりながら、1人で100種類以上の試作品づくりに勤しんだ。

橋本は、この1年間である1つの考えに至ったという。「人間に教育は不要」ということだ。

「いま起業家はスポットライトを当てられて、社会に必要な存在とされています。実際に会社を大きくする人間も増えています。でも、起業家というのは、誰かから教育を受けてなるものではないんです。僕は最初の1年間は1人でしたが、自分の成長を強く実感できた。だから、社員ひとりひとりが起業家のように自分で成長していく会社をつくりたいと思ってるんです」

BASEFOODのCEO橋本舜

このときの気づきが、現在のBASE FOODの文化を創っているといっても過言ではない。同社が大切にしているのは「余白」だ。

橋本は徹底的にミーティングを減らし、社員の「考える時間の確保」を心がける。また多くの場合、上場前は業務負荷がかかりやすくなるが、橋本は労働時間が増えたり、残業したりすることを許さない。基本的には定時内で仕事をして、それは社長も例外ではない。その甲斐あってか、創業以来、退職者はわずか1人だ。

実は、主軸商品である「BASE BREAD」は社員が自発的につくり、橋本のところに試作品を持ち込んだ。またコンビニ展開も社員からの発案だったが、橋本はむしろ否定的な意見を出したという。

「コンビニ展開するのにはまだ時期尚早と思っていましたが、僕の予想に反して好評です。僕には『絶対売れないからやめてくれ』と伝える選択肢もあったわけですが、それは言わなかった。『自分としては違うような気がする』と伝えつつも、否定はしないという。大切なのは社員をコントロールしすぎないこと。バランスが重要なんです」

橋本がいう「バランス」をより具体的に説明するとこういうことだ。

「僕が朝から晩までSlackに張り付いたり、あらゆる会議に出ていたりすると、社員はいずれ指示待ちになります。だから、いま伝えるべきことをしっかりと話せたなと思った時は、 Slackを見る時間や会社に行く頻度を意図的に減らします。

すると、自然と社員と僕との間には距離ができます。 その間にこそ、社員は試行錯誤を繰り返し、成長が生まれる。もちろんメンバーが優秀だという前提ではありますが。とはいえ、自由の度合いが過ぎるとバラバラになるから、時期をみて、また僕の考えをしっかりと伝えるんです」

社員が積極的に動く時期、橋本は自らの勉強に時間を充てる。例えば、海外展開を見据えている時であれば英語を勉強する。CTOとの会話がより密なものにできるよう、食品製造に関わる化学や物理を学び直す。

こうした絶妙な「余白」が、BASE FOODの成長を支えているのだ。
次ページ > コロナ禍、米国から一時撤退

文=露原直人 撮影=林孝典

タグ:

連載

IPO起業家の 私たちが飛躍した瞬間

ForbesBrandVoice

人気記事