そして、予想を上回る結果を残したのは、民主党だった。事前に期待されていた共和党の圧勝、「赤い波」が起こらなかったのは、有権者が重視する問題は経済ばかりではなく、より複雑だったということだろう。
妊娠中絶と避妊に関する研究を支援する非営利団体、ソサイアティ・オブ・ファミリー・プランニングの調査によると、米国の各州で行われた中絶手術の件数(月間)は、8月には4月と比べ、5000件以上減少していた。
これは、連邦最高裁が6月24日、中絶を「憲法で認められた女性の権利」とした「ロー対ウェイド」判決を覆した後、各州が中絶手術を違法としたり、厳しく制限したりしたためとみられている。
一方、この調査では、この間に手術の件数が増えた州もあることがわかっている。たとえば、南部と中西部の州を中心に中絶が禁止されたり、認められる基準が大幅に厳格化されたりした後、イリノイ州とノースカロライナ州では、それぞれ約1520件、1170件増加していた。
また、7月1日から妊娠15週目以降の中絶が禁止されたフロリダ州で手術の件数が増えたのは、近隣の州でさらに厳しい条件が導入されたためとされている。同様に、ニューヨーク州では8月、4月と比べて約990件増えたが、これは比較的近いオハイオ州で、約1260件減少していたことと関連しているとみられている。
不平等に増大する負担
連邦最高裁が「ロー対ウェイド」判決を覆す以前から、米国では州によって中絶に関する法律や手術へのアクセスを巡る状況が大きく異なっていた。そのため、手術を受けるために遠方に出向くことは、新たに起きた現象というわけではない。
報告書によると、2020年には中絶手術を受けた人の約9%が、居住する以外の州で手術を受けていた。だが、現在では州外にアクセスを求める人がさらに増加。一部の州に手術の申し込みが集中していることから、実際に手術を受けられるまでの待ち時間はさらに長くなっているという。
また、中絶手術の件数が減少した州の大半は、人種によって妊産婦の罹患率・死亡率に大きな差がある州だ。以前には受けられていた中絶手術が受けられなくなった人の多くを占めるのは、有色人種や低所得層の人たちだと考えられる。
特に南部・中西部では、手術を受けることが可能な最も近い医療機関までの移動時間が大幅に伸びている。同時に、中絶にかかる費用も増加している。ハーバード大学医学大学院など複数の大学の研究者らが行った調査では、有色人種や先住民族のコミュニティーの人たちの間で、より長時間の移動が必要になったことが明らかになっている。
(forbes.com 原文)