同社代表取締役社長 兼 CEO 天沼聰(あまぬま・さとし)氏に起業家の素養、事業成長のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全3話中3話)
第一話:7月上場の「エアークローゼット」 CEOが考える起業家の3つの素養 #1
第二話:エアークローゼットのビジョン浸透術 起業前に行動指針を確立 #2
投資家には「ブレない価値」を共有する
──資金調達について、これまで意識されてきたポイントをお聞かせください。
スタートアップが資金調達をする理由の一番大きい部分は「成長スピード」だと思います。外部資金を投入してでもスピードを早めるべきビジネスモデルなのか、という部分です。
我々は大きい市場の中で立ち上げた新サービスだったので、できるだけ早くポジショニングを作っていくことが大切だと考え、創業メンバーの持分比率が小さくなってでも資金調達をしてスピードを優先することを、最初に創業メンバー間で決めました。
この大方針を初期に合意したのは、振り返ると資金調達で一番大切だったポイントだったように思います。
逆に1番苦労したのは企業価値(バリュエーション)の考え方。
私自身、スタートアップや投資の経験はなく、サービスも新規性が高かったため、どう企業価値を考えれば良いのか正直わかりませんでした。
ですので、とにかくさまざまな意見を聞き、丁寧に進めていきました。事業計画上、必要な資金とタイミングはある程度決まっていますが、企業価値をどう正当化していくかは最後まで迷った部分でしたね。
逆に投資家と向き合う際に、大切にして良かったのは「目的を徹底的に聞く」こと。投資目的が何で、どういう目線で我々を評価しているのか、とことん聞くようにしました。
そうやって聞いていくなかで、特に「サービスが作る未来」と「私たち経営陣」をご評価いただいた方が、長い目で見た時に良いと考えました。
実績や業績は変動がありますが、「サービスが作る未来」と「私たち経営陣」はブレない。そのブレない部分を信じてくださる投資家を選んだことが良かったポイントだと思います。
──ご自身の経験に基づいて、もしほかに後進起業家にアドバイスがあるとしたらどういうポイントでしょうか?
資金調達の目的と、会社としての優先順位を徹底的に話し合っておくことです。
私たちは「スピード優先」と決めたからこそ迷わず進んでこられましたし、意見が割れることもありませんでした。選択を迫られたら「こっちの方がスピードが早い」で決まる。
資金調達も会社それぞれに正解があります。「目的の明確化」と「優先順位の検討」は私たちがやっていて良かったなと感じている部分です。
逆風下でのIPOを決めたワケ
──2022年は上場を見送るスタートアップも多数いる中で、IPOを果たされました。
これは読者の方の参考にならないかもしれませんが、私たちが上場時に一番苦労したのは新型コロナウイルスへの対応です。
当然このような事態を予想していませんでしたし、特にファッションアパレル業界に対してコロナウイルスは非常にネガティブな影響を与えました。市場全体が9兆円あったものが、1から2年で7.5兆円まで下がった。市場の10%以上が1年で消える非常事態だったわけです。
そんな状況下でもIPOを決めたのは、上場する目的が明確だったからです。