意外な企業が円安の恩恵を受ける一方で、思ったほどには、恩恵を受けていない企業もあるということが明らかになる内容だ。
例えば、小売業のファーストリテイリングは、円安恩恵で為替利益を1162億円計上した。グローバル企業である同社は、小売業であっても海外で「ドルで稼ぐ力」があるわけだ。トヨタ自動車は為替変動の影響で「5650億円」プラス。しかし資源高の打撃を受け7650億円のマイナスとなり、「為替益」が「コスト高」に相殺されている状況だ。
そのほか為替益だけ見ると、日本電産が170億円、キーエンスは118億円、キヤノン248億円、京セラ1030億円。だが、株価は明暗がわかれた。株式市場は、本業で稼ぐ力が弱いと判断すれば、為替益は一時的だと考えているのだろう。なお、円安が実体経済にプラス効果が出るまでにタイムラグがある「Jカーブ効果」の議論については後段で述べる。
引き締めスタンスで為替水準はどう変わる?
円安で得をするのは、輸出や海外投資を行うグローバル大企業だけで、内需主導型の中小企業や家計部門は損する面が圧倒的に大きいのが現状だ。
国民生活は物価高に苦しむ一方で、利上げをすれば日本経済は冷え込むのではないかと懸念の声が渦巻いている。これでは、何も前に進まない。
そこで、興味深いデータがニッセイ基礎研究所から公開された。日銀のマイナス金利政策や長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)など、各政策でどの程度金利を抑えているかを試算し、10年物国債利回りの「理論値」を出したところ、9月末時点で1.5%台という内容だ。
現在日銀は10年物国債利回りを0.25%より上昇しないように、買入れを続けている(指し値オペを実施)。これが、日米の金利差拡大に繋がり円安になっている。もし指し値オペを含めて、イールドカーブ・コントロールをしなければ、10年債の理論値は今より、1.3%ほど高い1.5%まで上昇する試算になるということだ。
では、日本の10年債の金利が1.5%にまで上昇した場合、どれくらいの円高水準になるか。試算では約11~13円の円高となり、132~135円程度になることが予想される。あくまでも試算だが、イールドカーブ・コントロールを辞めた場合でも、1ドル=130円台であれば、そこまでの円高になるわけではない。十分に円安だ。