機械翻訳のブランドとしては最後発ながら、人工知能を活用したニュアンスの訳出や口語の翻訳、そして訳文出力のスピード感でユーザーの心をわし掴みにしている。2020年3月には日本語にも対応、日本人ユーザーも急増中だ。
来日中のヤロスワフ・クテロフスキーCEOに、コミュニケーション戦略研究家である岡本純子氏がインタビューした。前編:機械翻訳DeepL CEOが語る「行間を読むAI」「ニューロネットワークの美」に続き以下、お届けする。
「生きている間に結果が出る」仕事を
──コンピューター・サイエンスがご専門です。計算機のテクノロジーにはずっと情熱を感じてこられましたか?
はい。10歳くらいからプログラミングやコーディングを始めて、以来ずっと情熱を感じています。技術を使って問題を解決するのが好きで、楽しみのためにやることもありましたが、実社会の問題を解決できるとうれしかったですね。もちろん、10歳のころに取り組んでいた簡単な問題から、だんだん大きな問題へと移行していったのですが。
──アカデミアの世界に留まらず、ビジネスの世界に船出されたのはなぜですか?
私にとって重要なのは、より多くの人々の生活に影響を与えられることでした。それが、はるか彼方未来のことに取り組むことも多い大学の研究室よりも、私にとってはより充実した取り組みでした。自分が生きている間に、より直接的に結果が出ることが楽しみなんです。それに、ビジネスの世界の変化のスピードやペースが合っていますね。
──DeepLは、人間の専門翻訳家がするような「抄訳(原文のところどころを抜き出して翻訳すること)」もできるようになりますか?
機械翻訳の働きは、面白いことに人間の翻訳者のアプローチによく似ています。例えば人間が翻訳する場合、まずはテキストを通しで読んで、トピックの全体像を把握しますよね。それから文章に戻り、その文章を翻訳し、訳し下ろしの言語で出力し始めます。そして、時には原文に戻って確認する。実はこれは、AIがしていることとよく似ているんです。AIも文章を大まかに見てからアウトプットを始める。そして、さらに細かく、元の言語のテキストに戻ってチェックします。
ですから、これまでの研究成果から、テキストの要約文を取得したければ「できる」と思います。しかし、私たちは今「全文翻訳」に重点を置いています。抄訳はまったく別のユースケースになりますね。
──有料会員が多い国はどこでしょう?
ドイツがトップ、次いで日本です。第2の市場としての日本には大いに可能性がありますね。
──現在、感じている課題、障壁はありますか?
重箱の隅をつつくように精査すれば翻訳にまだ間違いはあるかもしれません。とくに訳し元の文章に問題がある場合には、まだ課題があります。
そして、AIに行間を読ませ、訳し元のセンテンスに書かれていない「言外の意味」を汲み取らせること、そして優れた出力文を書かせることなども課題とはいえます。
ですが、ニューラルネットワークを進化させる上で直面する科学的な問題以外に、われわれが課題視している重要な障壁はとくにありません。
──人間の翻訳者が将来、立ち行く先はあるのでしょうか?
現在、多くのプロ翻訳者もDeepLを使っています。彼らは素晴らしいユーザーですし、DeepLは彼らの生活や仕事を格段に楽に、より速くより効率的にしていると思います。新しいテクノロジーが生まれ、発展すれば、人間の仕事の環境も変わっていくのは当然でしょう。