「産業革命が、もっと最近では技術革命が世界を変えたように、インパクト革命も同じく世界を変えるだろう」
英国インパクト投資の大御所、ロナルド・コーエンは、著書『インパクト投資』のなかでそのように述べている。彼は、インパクトを次のように定義している。
「人類と地球のためになる行動手段。害を与えることを最小限に抑えるだけでなく、プラスのインパクトを作り出し、積極的によいものを作り出すこと。それには社会的インパクト、環境的インパクトがある」。そして「インパクトを社会の中核とし、経済システムの中心に据える必要がある」と提言している。
背景にあるのは、20世紀後半に導入された「リスク」の測定・数量化が現在のリスク、リターンのモデルをつくり上げて金融世界を大きく進化させたように、リスク・リターンに加えて、社会・環境へのポジティブなインパクトの測定・数量化によって、同様の革命が起きるという考えだ。
欧米では急拡大・本格化
「短期・中期経済利益のみの行き過ぎた追求が1. 貧困・医療・教育格差、2. 温暖化、環境問題、3. 男女格差、4. 人種格差といった社会課題を引き起こしてきた。これからの金融資本主義の発展とともに、自律的にこれらの社会課題が解決されていく社会になるための、最も有効なアプローチが『インパクト投資』だ」
そう話すのは、インパクト/ESG投資事業を行うGLINインパクトキャピタルの中村将人だ。インパクト投資とは、世界的なネットワークである「Global Impact Investing Network(GIIN)」の定義によると、「財務的なリターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを生み出すことを意図して行われる投資」だ。
「すでに欧米を中心に、この『両取りの投資』は世界的に急拡大している」(中村)
現在、世界のインパクト投資の推定残高(20年、GI IN調査)は、前年比42%増の7150億ドルにのぼるなど、欧米では本格化している。世界最大の資産運用会社のブラックロックをはじめ、プライベート・エクイティ(PE)業界では、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が2018年に10億ドル、22年に13億ドルのファンドを組成。TPGキャピタルも17年に20億ドルのファンドを組成、20年には40億ドル以上の投資資産を運用している。
ベインキャピタルも17年にインパクトファンドを組成、11億9000万ドルの資金調達に成功している。ベンチャーキャピタル(VC)業界もPEと比較すると資産規模こそ少ないが、ファンド数は右肩上がりに増加している。インパクト評価手法の標準化に向けた議論も進行し、実態が伴わない「インパクトウォッシュ」への懸念の高まりに対し、インパクト測定・マネジメントの実施も重視されている。