バーチャル空間で重要となるのは、その世界内での「体験」。この「体験」のデザインにチャレンジしているのがバーチャル建築家の番匠カンナだ。建築家としてのキャリアを積んだのち、2018年にバーチャル建築家「番匠カンナ」を生成した。
メタバース内の総合展示会「バーチャルマーケット」や「TOKYO GAME SHOW VR」に携わり、2021年からはメタバースの技術開発やコンテンツ開発を手掛けるスタートアップambrのCXO(Chief Experience Officer)に就任。建築の枠組みを超え、空間設計の領域にも足を踏み入れた。
番匠カンナとは何者か。これからどこへ向かうのか。未来予想図を聞いた。
——2010年に東大大学院の建築学専攻を修了後、2011年から隈研吾建築都市設計事務所で建築家として活動されていました。なぜ建築の道に?
元々すごく建築が好きだったというわけではないんです。
東大に入って、進路を振り分けるときにものづくり系の学科なら建築だろうと当時考えたのもあり、「面白そうだから」という理由で選びました。だから建築のことを本格的に知ったのも大学からです。
——建築設計事務所では、「蘇州市相城区陽澄湖集散中心」「無錫万科運河外灘1号」「廣澤美術館」「田園調布せせらぎ館」など、国内外の建築プロジェクトに参加されました。バーチャル建築家「番匠カンナ」として独立されたきっかけは?
2018年の初めくらいにバーチャルYouTuber(Vtuber)をたまたま見て、そこからソーシャルVRアプリ「VRChat」を知りました。それがこの世界に興味を持ったきっかけです。バーチャル世界にも人々を包む空間があって、その中で人々が思い思いに活動している光景を見て「これはリアルの建築と変わらない」と感じました。
アトリエ系の建築業界は一定期間を経て独立するのが一般的なのですが、当時の私もちょうど独立を考えて事務所を辞めたタイミングでした。その後1年くらいは仕事をせずにバーチャル空間で遊んで過ごしていたんです。
バーチャル空間で活動するにはアバターがないと始まりません。そこでまず、独学で3DCGアニメーションを作成するためのアプリ「Blender」を学び、アバターをつくりました。建築でも3Dモデリングはするのですが、同じモデリングでも考え方もツールも違います。
番匠カンナ(アバター)
次にバーチャル空間をアップロードするために、開発プラットフォーム「Unity」も学びました。誰もが自由に空間をつくれて、それをアップロードできて、そこに人を呼ぶことができるバーチャル空間は、建築をやってきた人間からすると夢のような世界でした。
そうして、VRやMRなどXR空間の設計を行う「バーチャル建築家」として活動するようになりました。