中国・北京の清華大学と、米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の社会科学者で構成された研究チームは、詐欺や現金の搾取、交通ルールや駐車ルールの違反など、社会規範に反する行動をテーマにした研究10件を検証した。対象となったのは、中国で記録された6万8000件ほどの観察データだ。
10件の研究のうち1つでは、交差点に設置された交通監視カメラの録画内容を精査した。その結果、マスクを着用した人のほうが、マスクを着用していない人よりも、赤信号を無視する傾向が低いことが確認された。
マスクを着用した人々のほうが道徳意識と義務感が高く、社会全般の安全を維持するためにルールを守ろうとする姿勢が強いことが認められたわけだ(マスクを着用することで匿名性が上がり、ルールを守らない例が増えることも考えられたが、実際には、マスク着用によってルール順守が増えたことが確認された)。
研究チームは、マスクをずっと着用している人のほうが、より慎重なタイプであり、かつ、交通ルールを守るということは、不運な事故を防ごうと格段に注意している証拠であることを認めている。そこで、リスク回避をめぐる考え方の違いを除外するために、研究チームは他の分析を行った。
自転車を駐輪する人々の行動を観察したところ、マスクを着用している人のほうが、マスクを着用していない人よりも、法律に従って駐輪するケースが多いことがわかった。現金の搾取についても、同様の結果が得られた。
人間の行動に影響を与えるさまざまな要素のなかで、マスクを着用する人と、マスクの着用を拒否する人を比べると、社会規範に反する行動に関する相違は4%程度だと研究チームは推測している。
研究論文の共著者で、MITスローン経営大学院の准教授ジャクソン・ルー(Jackson Lu)はプレスリリースで、「マスクの着用がモラルの象徴であり、道徳的な義務や、他人を守ること、全体的な幸福のために自らが不利益を被ることの重要性を示すのであれば、マスクをすることが道徳的に正しい行動をとることにつながる可能性がある」と述べている。
「しかし、研究対象となったのは中国のデータだけであり、今回の結果を一般論としないようにしている」
ルーはさらにプレスリリースで、「マスクを着用する目的はさまざまであり、状況によっても異なる」と述べ、こう続けた。「現時点では、マスクがモラルの象徴としての働きを持っているのかもしれないが、マスク着用の目的は今後、変わっていく可能性がある。さらなる研究が必要だ」
(forbes.com 原文)