リスペクトを胸に第2の人生へ
2022年11月10日行われた引退会見。その雰囲気は実に清々しいものだった。
2人の絆の強さを感じさせるやり取りから2週間後。熊本とのラストマッチを終えた俊輔は「ネガティブな意味じゃないけど、死ぬ気でというか、いつやめてもいい覚悟でやってきた」と振り返りながら、こんな言葉をつけ加えるのも忘れなかった。
「でも、カズさんが近くにいると麻痺してくるからね。一緒にやってみな。そんなこと言っていられなくなるから。本当に弱音は吐かないし、引退とか辞めるとか、そんなのをちらつかせたらもう、ね。今年は違うチームになったけど、横浜FCに来てカズさんと一緒にやれたのは大きいよ。選手としての価値で、新しいものを見られたから」
カズと共有した時間を介して人生の宝物を得た、と声を弾ませる俊輔は、カズのパフォーマンスのなかでぜひとも見たいものがあると、3年前から語っていた。
「カズさんのダンス、見たくないですか。見たいでしょう。だって、オレが見たいもの」
ゴールを決めた後だけに解禁される“カズダンス”は、17年3月を最後に披露されていなかった。しかし、熊本戦から1週間後の10月30日。敵地で行われたFCティアモ枚方戦の後半40分に、鈴鹿が獲得したPKをカズがゴール右上へ豪快に突き刺した。
JFLにおける歴代最年長ゴール記録を、55歳246日と大幅に更新した直後。腰をくねらせ、軽やかにステップを踏みながら左手を股間のあたりにあて、右手の人さし指を空へ突きあげて笑顔で締める“カズダンス”が舞われた。
カズが待望の移籍後ゴールを決めた映像は、地上波のニュースで何度も報じられた。俊輔にも届いたはずの歓喜の舞いは、選択肢のひとつに指導者を思い描きながら、第2の人生を歩み始めたばかりの稀代のレフティーへの至福のエールとなった。