カーボンニュートラル社会の実現に貢献しながらも、多様化するユーザーのニーズやライフスタイルに寄り添うクルマづくりに取り組むLEXUSと、従来の自動車用ガラスの延長ではなく、全く新しい視点で製品開発をする素材メーカーAGC。
彼らはモビリティ領域におけるイノベーションをどう見ているのか。またLEXUSはどのように社会の変革をリードしていくのか、そして進化し続けるモビリティ領域にAGCはどんな価値を提供していくのか。「RZ」の開発に取り組んだLEXUS・AGCの6名に話を聞いた。
心の豊かさに繋がるクルマが必要とされる時代に
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、適時適材適所に電動化車両の展開を目指すLEXUS。「RZ」開発責任者である渡辺剛(以下、渡辺)は、BEVはカーボンニュートラルやサステナブルなモビリティ社会といった自然との共生を大事にしながらも、楽しいクルマを追求し続けることが重要だと話す。また「RZ」は、新しい時代に求められるラグジュアリーという価値観を新たに創造するためのチャレンジでもあったという。
「BEV化していく中でLEXUSとして守り続けていく、こだわり続けていかなければならないものがある。それはモビリティ社会においてもLEXUSはクルマであり続けるということです。クルマは豊かな時間を過ごせる存在であり、相棒である。LEXUSはそういうクルマづくりを続けたいと思っています」(渡辺)
乗る人の相棒であり続けるために、渡辺が最も大切にしているのが「走り」と「デザイン」。BEVならではの心地よさや安らぎ、心の豊かさに繋がるような世界観を提供できるクルマにするためにさまざまな取り組みを行ったのが「RZ」というわけだ。
Lexus International「RZ」チーフデザイナー 三木鉄雄 AGC株式会社 オートモーティブカンパニー 技術統括室 開発センター長 濱野直
感性に響く空間作りにこだわったと話すのは、「RZ」チーフデザイナーの三木鉄雄。
「『RZ』は開発段階から常にチャレンジを続けてきたクルマでもある。ひと目でLEXUSのBEVとわかるデザインを目指し、五感を刺激するクルマになった。特にエンジンがなくなることで静粛性が高まる分、視覚的な情報などが際立ってくる。窓外を流れていく景色もお客様にとっては今までより鮮明に入ってくる。AGCの皆さんにはそこに大きく貢献いただきました」(三木)
サンシェードを必要としないパノラマルーフの誕生
五感を刺激する次世代LEXUSとして、空間や視界による移動体験をより豊かにするものの一つが、AGCとともに開発したサンシェードを必要としないルーフガラスだ。
従来のパノラマルーフの場合、眩しい日差しや日射熱の影響を受けないためのサンシェードを必要としたが、AGCが開発した調光ガラス「WONDERLITE® Dx」は2枚のガラスの間に特殊フィルムを挟み込み、電圧でコントロールすることで調光モードと透過モードを瞬時に切り替えることができる。また「車載用特殊Low-Eコート技術」により、 熱をもったガラスの輻射熱を約1/5にカット、車外放熱を約2/3に抑制できる。そのため夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるうえ、シェードレス化により車体の軽量化やヘッドクリアランスの確保にも繋がっている。
(左)「調光モード」使用時 (右)「透過モード」使用時
「RZ」開発担当者の西山将弘はこのルーフガラスを初めて見た時、その技術力に驚いたという。
「サンシェードがないことが武器になる。このルーフガラスを使えば、バッテリー搭載に伴う床面上昇という課題に対して、頭上スペースを拡張することなく、圧迫感のない空間を確保できる。後部座席に座ったときに、インテリアとしてシームレスに馴染んだルーフガラスを見て、ユーザーにとって、デザインだけでなく室内空間として大きな魅力になると感じました」(西山)
Lexus International「RZ」開発担当者 西山将弘 AGC株式会社 オートモーティブカンパニー セールスエンジニア 大川潤
AGCでオートモーティブカンパニー技術統括室 開発センター長である濱野直は、断熱と調光機能を自在にコントロールできることを柱として技術開発を進めてきた。
「AGCは以前から建物用のガラスにおける断熱技術、そしてクルマや建物用での調光機能を開発してきた知見がある。LEXUSの皆さんから相談を受けたときは、それらを『RZ』の商品性や成形したガラスのデザイン性と合致したものとしてどう実現させていくのか。このマルチファンクションの実現が今回のルーフガラス開発の肝になると思いました」(濱野)
開発段階ではともに何度も試行錯誤を繰り返し、北海道などLEXUSが持つテストコースでの過酷な環境テストなどを通じて、ようやく採用というゴールに辿り着いた。
AGCでセールスエンジニアを務める大川潤はLEXUSとの開発に関する議論を積み重ねていく中で、大きな学びがあったと語る。
「サンシェードをなくすことで後部座席からの視野が広がり、空間全体の雰囲気を一新させることに繋がった。新しい価値観を追求する『RZ』にふさわしいパノラマルーフの在り方を開発の中で一緒に模索してきたことで、先進的な技術で機能性を高めるだけでなく、部品としてのガラスがクルマのデザインにも大きな影響を与えることができると学ばせていただきました」(大川)
軽量化や解放感だけではなく、美しくデザインされたパノラマルーフがまるで絵画の額縁となり、澄んだ青空や星空、紅葉や桜並木をこれまで以上に美しく、広い視野で眺めることができる。自分の見たい景色の中にクルマごと溶け込み、借景を楽しむ。LEXUSとAGCによる挑戦は、そんなクルマの新しい体験価値を生み出し、乗車する人々の心の安らぎへと繋がっていく。
完成してゴールではない、次の夢に向けて動き始めていく
今後LEXUSとAGCは、次世代のモビリティ社会においてどのような未来を描いていくのか。渡辺は、多様なニーズに応えられるブランドへと成長し続けることを前提とした上で、今はどんどんチャレンジをしていきたいと語る。
「お客様の多様化する価値観に寄り添い、そこに応え続けるクルマを造っていく、そして将来の環境課題に対しても答えを出せるテクノロジーを量産し、世の中に広く展開できるようにしていく。この2つを軸に未来にインパクトを与えられるようなブランドを目指していきたい」(渡辺)
Lexus International「RZ」開発責任者 渡辺剛 AGC株式会社 オートモーティブカンパニー モビリティ事業本部長 大西夏行
AGCでオートモーティブカンパニー モビリティ事業本部長を務める大西夏行は渡辺の話を受け、事業開発に対する熱い想いを語った。
「AGCは素材の会社です。我々、オートモーティブカンパニーは、この素材を組合せ、つくりあげた “部材総合サプライヤー”です。例えば、AGCのガラスという無機材料と様々な機能を実現する有機材料を組合せ、長い歴史の中で培ってきた幅広い生産技術で製品化していくわけです。これからのモビリティ社会には、このAGCの素材とその組合せからまだまだ貢献できることがあると信じています」(大西)
そして、具体的に3つの分野の可能性について思いを巡らせた。まず一つは通信と繋がる「アンテナ」、次に自動運転化に向けた「センサー」、そして「ディスプレイ」だ。
「当社はクルマに関わるあらゆる技術開発を進め、プロジェクターを使って窓ガラスに映像投影を可能とする機能を発表したばかりです。これからのクルマはアンテナを通じて大量の映像情報も配信可能になり、自動運転社会に向けて高度なセンサーが活躍し、車内ディスプレイや窓ガラスに投影されたディスプレイで映画や動画を見ることができるようになるでしょう。
便利で快適、安全なモビリティ社会を実現したい。そのような人々の夢を叶えるために、AGCのブランドステートメント“Your Dreams, Our Challenge” にある通り、企業同士の協創を通じて、新しい可能性をつくりだしていきたいですね。その先駆けがこの『RZ』だと思っています」(大西)
対談が終わった後も、未来に向けたクルマづくりの話が尽きないメンバーたち。「モノづくりには終わりがない。できて完成ではなく、できなかったことが山ほどある」と渡辺が語るように、これからもモビリティ領域においては、さまざまな挑戦が続いていくのだろう。
そして素材の会社としてクライアントからの難題に対して、要望の枠を超えて実現していくAGCのような企業の存在により、未来のクルマが誕生していく。LEXUSとAGCが協創して作る“人とクルマ”の社会は、無限の可能性に溢れている。
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