企業の構造的差別解消へ。スプツニ子!が女性の健康から始めるD&I

マリ尾崎(スプツニ子!)

妊活や生理、更年期障害などの女性特有の健康課題は、職場では個人の問題ととらえられ相談しづらいことが多い。女性の健康支援を企業のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)促進の一環と考え、セミナーや医療サービス補助を包括して提供するのが、フェムテックの会社Cradle(クレードル)。立ち上げたのはアーティストとして知られるスプツニ子!だ。

学生時代からテクノロジーやジェンダーをテーマに作品を手がけてきたが、創作の原点は「テクノロジーが進化しているのに、なぜ生理の問題は解決されないのか」という疑問。15歳で重い生理に悩んだ際、日本の病院では真摯に診てもらえなかったが、留学先のイギリスでは生理不順を和らげる低用量ピルが無料で処方された。

日本での低用量ピル承認は国連加盟国で最も遅い1999年だが、男性用バイアグラはたった半年で承認されている。「人口の半分が経験する生理がなぜタブー視され続けるのか」。強い違和感を覚えた。

33才のころ、自らの出産タイミングに悩んだことで、アートを超えて「人の生き方や社会を変えられるようなサービスをつくりたい」と起業を決意。リサーチすると、生理や更年期、不妊治療などのサポート体制が企業内で整っていないことがわかった。経営者など意思決定層の多くは男性。禁煙外来やメタボ診療のサポートはあるのに、女性の健康問題はおざなりにされていた。

Cradleでは、女性の健康を企業がサポートできる仕組みをつくるため不妊治療や卵子凍結、各種婦人科検診、卵巣中の卵子残量を調べるAMH検査などの補助サービスを提供。すでに資生堂や双日等の大企業が導入している。

起業後多忙を極めるなか、出産も経験。周囲に妊娠を伝えると、お祝いと共に「これから仕事はほどほどにね」という声をかけられた。

「働く意欲は変わらないのに、社会から引退を促されているような気持ちになった。企業による女性の健康支援が当たり前な、多様性ある未来が理想です」


マリ尾崎(スプツニ子!)◎東京都生まれ。Cradle代表取締役社長。アーティスト・スプツニ子!としても活動。英国王立芸術学院在学中より、映像インスタレーション作品を制作。マサチューセッツ工科大学メディアラボ助教授等を経て、東京藝術大学デザイン科准教授に。2014年、Forbes JAPAN「未来を創る日本の女性10人」選出。19年Cradleを設立。

文=菊池友美 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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