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2022.11.09

議論と翻訳と傾聴がデータを生かす道|鈴木初実(データアーティスト)<電通グループで働くネクスト・クリエイターの肖像#2>

国内の約160社で構成される国内電通グループから、ネクスト・クリエイターの目覚ましい仕事を紹介していく連載企画。今回は、グループ内のデータアーティスト社でAIソリューションを開発している鈴木初実が登場。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が、彼女の想いを聞いた。


鈴木初実は、データアーティスト社に所属するデータサイエンティストだ。同社は、日本におけるAI研究の第一人者として知られる東京大学松尾豊教授の研究室に所属していた山本覚が2013年に設立。18年3月に電通グループに参画している。

その挑戦は誰のために


谷本有香(以下、谷本):まずは鈴木さんのジョブタイトルに加えて、現在のお仕事の内容を簡単に教えていただけますか。

鈴木初実(以下、鈴木):データアーティストのAIソリューション事業部で、20人ほどのメンバーを束ねる部長を務めています。職能としてはデータサイエンティストです。エンジニアとして手を動かすということも一部でしますが、究極的にはお客様のお困りごとやご要望をおうかがいしてから、AIを使うなり、データを活用するなりといったことの全体を見通し、どのような課題の解決策があるのか、そこに向けてどのようなサービス提供ができるのかを立案していくのが私の仕事です。そして、PoCやシステム開発の過程を経てサービスがリリースされるまでを統括しています。

谷本:AIやデータサイエンスのスペシャリスト集団であるデータアーティスト社が電通グループにジョインされたことによって生まれたメリットやシナジーについては、これまでにどのようなものがあったのでしょうか。

鈴木:課題解決に向けてAIを有効に駆動させるために必要なのは、まずもってデータです。どのようなデータを保有しているか……。そのデータをどのように生かすと判断するか……。このふたつが大変に重要です。すなわち、「いいデータといい判断がなければ、いいAIは生まれない」と言えるわけですが、まさに電通グループとして仕事をしていることの強みは、そこにあると感じています。

谷本:その部分について、具体的なお仕事の事例と絡めて詳しく教えていただけますでしょうか。

鈴木:例えば、AIを使ったテレビ視聴率予測のプロジェクトがあります。ディープラーニングの技術を用いて開発するので、技術そのもので言うならAIを手がけている会社であれば実装可能なのですが、やはり「いいデータといい判断」の部分で私たちは違いを生み出すことができます。どのデータをどのように取り扱ったらAIでも視聴率予測ができるようになるかを判断するためには、クライアント様のビジネスに対する深い理解が前提になります。私たちはAIチームとテレビ広告チームが一丸となってクライアント様とディスカッションを重ねてきました。そうしたディスカッションができること自体、誰もができることではありません。

谷本:メディアビジネスにおいて豊富な実績を有している電通グループであれば、これまでの視聴率予測によって積み上げてきたデータやデータの見方といったノウハウもしっかり有しているわけですね。その地点からディスカッションを始められるのであれば、やはり他社と比べてより遠く、より深くまでプロジェクトが到達できる。そのようなポジティブなフローが生まれているこということですね。

鈴木:加えて、個人的なメリットもありました(笑)。私はサッカーが大好きで、特に場所を選ばず至る所で、そのことをいつも口に出して言うようにしていたのです。そうしたら、さまざまな流れが重なって、サッカーの仕事をいただくことができました。

谷本:どのようなプロジェクトだったのでしょうか。

鈴木:「AI ELEVEN」というプロジェクトです。簡単に言えば、試合の映像からフィールド上にいる選手の動きをすべてトラッキングします。データアーティスト社が開発したAIモジュールを組み合わせてソリューションを構築する「KEY RING」というサービスを使って、過去の試合を大量に学習したデータを掛け合わせることで、プレイを分析して勝敗予測のレポートも行っていきます。これまでにはなかった新しいサッカー観戦の体験を生み出すことができたと自負しています。この「AI ELEVEN」は、韓国のKリーグで導入されました。

谷本:自分の好きなこと、これから挑戦したいことについて社内でわかりやすく旗を立てておけば、大きな飛躍のチャンスを与えてもらえる。そのような懐の広さが電通グループにはあるのですね。

鈴木:そうですね。グループのカルチャーとして感じていることがあります。「挑戦」をウェルカムとしていること。「情熱」を重んじていること。このふたつです。サッカーの仕事の話については「個人的なメリット」という枕ことばを付けましたが、実際に私が行った「挑戦」と「情熱」は「お客様のことを第一に考えて、踏ん張るべきところは踏ん張るということ」と同義です。

谷本:鈴木さんご自身の幸せ、そして鈴木さんが生み出されたシステムを享受した人々の幸せ。データやAIといったものを媒介にして、ふたつの幸せがまったく矛盾することなく共存できていると……。お聞きしていて、とても素敵なお話だなと感じました。

鈴木:ひとつの挑戦は、また次の挑戦へとつながっていきます。「AI ELEVEN」でフィールドの映像から人の軌跡の分析ができたのであれば、店舗内での人の動きの分析にも生かしていけるはずです。ひとつのプロジェクトで技術を開発したら、他のプロジェクトにも活用していく。シーンを変えて技術を横展開していくということにも私は常に挑戦しています。



東日本大震災で感じた問題意識がいまの仕事につながっている


谷本:そもそもの話となりますが、鈴木さんは、どうしてデータサイエンティストの道に進まれたのでしょうか。もともと学生時代からAIの勉強をされていたのでしょうか。

鈴木:いえ、まったく違います(笑)。大学および大学院では「発生生物学」を学んでいました。「動物がどうして卵からこの形になるのか」といった研究です。中高生のころ、教科としての生物を学んだときに「自分はなぜ生まれ、いまこうして動いているのか」という根源的な問いに対する答えをのぞき込んだような気持ちになり、その深さに対してピュアに興味を抱いたのが、この学問の道へと歩み出したきっかけでした。

谷本:その「発生生物学」の道から、どのような経緯があってデータサイエンティストの道へと進まれたのでしょうか。

鈴木:実はデータアーティスト社のAIソリューション事業部には学生時代からAIを研究していた者とそうではない者が、およそ半々の割合でいます。学生時代に専攻していた学問で、実は「生物学」は多いという事実もあります。私の場合、ベンチャーが集まる会社説明会の場で電通グループに加入する以前のデータアーティスト社と出会いました。そこで「データを使って人の気持ちを読み取り、より商品を売れやすくする」という事例を知って、これまでの自分の専攻分野をマクロで観たときの生かし方があると気づきました。まだ設立から1年ほどだったデータアーティスト社の理念は「科学的な知識を活かして世の中をよくしていこう」というもので、「ベンチャーならではの躍動感のなかに身を投じながら、自分も世の中をよくしていきたい」という想いを抱き入社しました。

谷本:そのようにして「異能を吸収していく力、異能を生かしていく力」がデータアーティスト社の強みになっているのではないかと思います。だからこそ、電通グループにおいて、データアーティスト社が新しい時代のハブになっていくのだろうとも思います。

鈴木:自分たちが結節点であることを常に意識しておくのは大事なことだと思います。そういうポジションに加えて、データサイエンティストは翻訳者やビジネストランスレーターだと言われることがありますね。私もその考え方に賛同しています。学生時代、私は専攻の他に「サイエンスコミュニケーション」という分野の勉強もしていました。そのきっかけは、東日本大震災です。

震災後、ニュースを見ている人々に放射能に関する専門的な言葉が上手く伝わっていないと感じました。ミスコミュニケーションが起きていたのです。一度、恐いという感情が先に立ってしまうと、いくら専門的な言葉と数字を挙げて「大丈夫ですよ」と言っても伝わらない。ニュースが言う「安全」と、それを聞いた人々の「安心」の間にものすごいギャップがあると感じたのです。その部分の疎通をうまくできないものかと考えたのを契機に「サイエンスコミュニケーション」を学んでいました。博物館で展示の内容を来場者にできるだけわかりやすく話すとか、本職の研究者がプレゼンをする際に小さい子どもにもわかるように制作物も含めてつくって伝えるという場をプロデュースするなど、さまざまなフィールドワークも繰り返してきました。



谷本:そのような問題意識、そして自己の能力開発はきっと、いまのお仕事に生かされているのだろうと思います。

鈴木:そうあってくれたらいいと思っています(笑)。当時から磨いてきたのは、「この話をした際にその話を聞いた人たちはどういうところに疑問点を感じるのだろうということを先回りして考えること」です。また、現在の仕事においては自分たちから何かを伝える前に「傾聴する」というフェースが重要であることも理解しています。お客様が話している内容から、その人が困っている内容だったり、理解ができていないポイントだったりを察することができなければいけません。そういう部分についても、私は自信があります。最終的にAIやデータを用いた解決策を提案するところまでをセットとして、現在の私の強みだと思っています。

谷本:いまのお話は、私たちのようなメディアの人間にとっても大変にありがたい示唆を与えてくれるものだと思います。自分たち都合のバイアスを立てずに、しっかりと耳を傾けてヒアリングしていく姿勢の大切さを教えていただきました。



データやAIを使った先にあるポジティブな未来とは


谷本:鈴木さんはデータアーティスト社から電通に出向されていた時期があるとお聞きしています。

鈴木:データアーティストが18年3月に電通グループに入ったのを受けて、同年5月から20年8月まで出向していました。その主な目的は、2社の連携を高めるためです。出向時のミッションとしては「電通のデータテクノロジー部署のデータサイエンス力を上げる」というものもありました。

谷本:具体的にはどのようなことをされていたのでしょうか。

鈴木:それまでのAIプロジェクトで得た知見と専門外から業界に飛び込んだ自身の経験を生かし、社内(電通グループ)向けの「データサイエンティスト育成講座」と「AI入門講座」を開発しました。これは、非常にやりがいのある仕事でしたね。データアーティストに入社する前からもっていた「難しいことをわかりやすく伝えていく」というマインドと共鳴する仕事でしたから。多くの方にご参加いただき、アンケートで感想をもらいながら直せるところは直していくなど、インタラクティブに進められたところもよかったです。結果として、電通グループのなかでAIという技術への心理的ハードルを下げることができたのではないかと考えています。当初、このふたつの講座は電通グループ向けにつくりましたが、事例などを社外にも公開可能なものへと変更したうえで、データアーティストの商品としていまではご希望をいただいた企業向けにも提供しています。

谷本:現在の社会には、AIに対して「監視されてしまうのでは」「統治されてしまうのでは」「コントロールされてしまうのでは」といったネガティブなイメージをおもちの方もいるかも知れません。鈴木さんは、データやAIを使った先にあるポジティブな未来とはどのようなものだとお考えでしょうか。

鈴木:蓄積したデータやAIを使うことによって、人間はより心地よく生活できるようになるのではないかと思っています。今後は人間が行うには大変だったり、疲れてしまったりすることをAIに任せて、人間は創造的な活動に自分の可処分時間を使えるようになっていくでしょう。人間が幸せに暮らすためにAIと共存する。そんな未来になるのではないかと思っています。

私個人にとってのAIは、何かを達成するための手段のひとつです。また、知的好奇心を満たしてくれる存在でもあります。まだまだ新しい技術が出てくる領域なので、その度に感心させられたり、刺激をもらったりしています。AIに限らずですが、科学技術は一度発明されてしまうとそれがなかった頃には戻れない不可逆的な変化をもたらします。そのなかで技術と共存して楽しく生きるためには、変化をポジティブに捉えて、便利に使いこなすのがいちばんなのかなと思っています。

データを使いこなすためには、議論と翻訳と傾聴が必要である。データはデータのままで勝手に生きてくれるのではない。人間が知見と感性と手間ひまをかけるからこそ、データは生きてくる。そうしたデータの生かし方を知っているのが鈴木初実であり、データアーティスト社であり、電通グループである。AIを使って自分もお客様も幸せにしたいという鈴木は、まさにデータアーティストだ。これから彼女が生み出していくサービス、そして事象に注目したい。

電通グループ
グループコーポレートコミュニケーションオフィス
Email:group-cc@dentsu-group.com


すずき・はつみ◎東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程修了。2015年4月、データアーティストに入社。入社1年目で関わったテレビ視聴率予測のプロジェクトで機械学習にはじめて触れる。その後、広告バナー自動生成システムの開発プロジェクトなどにプロジェクトマネージャー、データサイエンティストとして関わる。18年5月から20年8月まで電通に出向し、「データサイエンティスト育成講座」「AI入門講座」を開発。


連載 電通グループで働くネクスト・クリエイターの肖像
#1 公開中|「データで駆動するAI」と「感情で駆動する人間」の関係性を変える|石川隆一 
#2 本記事|議論と翻訳と傾聴がデータを生かす道|鈴木初実(データアーティスト)
#3 公開中|技術と人間の接点に感動を|村上晋太郎、岸 裕真、西村保彦

Promoted by Dentsu Group Inc. / text by Kiyoto Kuniryo / photographs by Masahiro Miki / edit by Akio Takashiro

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