今の議論で本当に防衛力強化になるのか、元陸将が感じる不安

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年末の改定が予定される戦略3文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画)を巡る議論が。徐々に本格化している。すでに、繰り返し「防衛力の抜本的な強化」に言及してきた岸田文雄首相は10月17日の衆院予算委員会で「内容、予算、財源を一体的に議論していく」と語った。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(有識者会議)は9月30日と10月20日に会議を開いた。防衛省は10月20日、スタンドオフ防衛能力や総合ミサイル防空能力など、防衛力強化のための「7本の柱」を発表した。財務相の諮問機関、財政制度等審議会は10月28日、防衛力整備のあり方や財源などについて協議した。

この一連の動きをみていて、陸上自衛隊中部方面総監などを務めた山下裕貴・千葉科学大客員教授(元陸将)は「不安を隠せません」と語る。「防衛力の抜本的強化どころか、後退するのではないかという不安もよぎります」

山下氏が挙げる不安の第1は、財務省が財政審の席上、防衛省に求めた「人員増ありき」という考え方からの脱却だ。財務省はその根拠としてドローンやサイバー技術の発展、日本での生産者人口の減少などを背景に挙げたという。自衛隊の人員は法令で24.7万人と定めているが、予算上の実員は23.3万人にとどまり、防衛省・自衛隊は増員を求めてきた。

ロシアによるウクライナ侵攻をみても、サイバーやドローンを駆使した攻撃が繰り返されている。山下氏は「確かに、ロシアもウクライナもドローン攻撃を駆使していますが、あくまでも攻撃方法の一つの手段です」と語る。山下氏によれば、攻撃型ドローンも、小型機では爆発力が小さい。標的になる相手陣地の数は多く、ドローンだけで攻撃目標をすべて破壊することは不可能だという。「ロシアもウクライナも、ドローン攻撃で敵の砲兵や戦車部隊に損害を与えても、最終的には戦車や装甲車などによる攻撃で陣地を奪おうとしています。ロシアが30万人の部分動員令を出したように、戦闘において兵員は必要です」
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文=牧野愛博

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