コンセプトは「演奏者と観客をつなぐインタラクティブな聴視体験」。プロジェクションマッピングなどのテクノロジーを駆使して、観客も演奏に参加できる体験型の演奏会だ。
地下で泡が発生し、一階へ
会場は地下・1階・トップデッキの3層構造で、まずは演奏が行われる地下に案内された。そこでは、ピアノを担当する江﨑とヴァイオリンの常田俊太郎、チェロの村岡苑子によって、この日のためだけに制作した曲が披露された。
フロアの壁面には8枚の大きなスクリーンが配置され、光の映像が演奏に合わせて輝きを放っていた。ピアノの鍵盤と同じように、左から右方向へ「低音から高音」を表現するように設定されており、音に合わせた位置が光るように工夫されている。
そして、その光からふつふつと小さな泡が発生し、その泡は1階のほうへとのぼっていく。
地下一階の様子。常田と村岡の指にもデバイスが装着され、指の動きに合わせた変化が映像に加えられていた
約10分間の演奏が終わると、1階へと誘導された。
全面ガラスに映し出される泡を触る様子
1階には7枚の全面ガラスがあり、そこに階下からあがってきた大小の泡が映し出されていた。さらに泡はトップデッキのほうへと浮き上がっていく。その泡に触れてみると、泡が割れて音が発生した。ガラスにセンサーが取り付けられていて、一定の大きさ以上の泡は触れると割れて音が発生する仕組みになっているのだ。
泡が割れる様子。ガラス窓にセンサーを張り巡らせ、一定の距離まで近づくとセンサーが反応する仕組み
そして泡は、上階のトップデッキへ到達。追いかけて見てみると、トップデッキ覆う幌に、さらに細かくなった泡が映し出されていた。
細かい泡などの映像が流れるトップデッキ
泡が到達したトップデッキの天井では、「風」が巻き起こって船(T-LOTUS M)を推進させるイメージが表現されている。この映像は1階で泡が割れたときに生み出された音の量に応じて、リアルタイムで変化していた。
「もう一台のピアノ」の謎
実は、地下の演奏会場には、江﨑が弾くピアノのほかにもう一台別のピアノがあった。はじめは不思議に思っていたが、最終段階になり合点がいった。
観客が泡を割ることで生み出された“音”が加わった曲が、その「もう一台のピアノ」で自動演奏される仕掛けだったのだ。この自動演奏にあわせて江﨑らが再びセッションし、新たな曲として披露される。
つまり、地下1階で演奏を聞いた後、1階、トップデッキへと移動し、再び地下に戻って、演奏を聴く。そこまでが1回の演奏会となっていた。この日は計6回の演奏会が行われていたが、そのどれもが違う音色になる仕掛けだ。
会場内での自らのアクションが演奏に影響を与える。奏者だけではなく来場者も演奏に参加し、新たな音楽を生み出すという新しい体験だった。